- 著者
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筒井 美紀
TSUTSUI Miki
- 出版者
- 京都女子大学現代社会学部
- 雑誌
- 現代社会研究 (ISSN:18842623)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, pp.89-105, 2009-12
「ふるさと雇用再生特別交付金事業」は、どのような求人を生み出しているのか。本稿は、大阪府の2009年7月現在の状況について、行政的な手続きを確認しつつ明らかにする。本稿は、雇用創出の中間ないし最終集計の分析ではなく、「オン・ゴーイングな観察」に過ぎない。だが、次の強みを持つ―「当該企業やNPOは、なぜいまこのタイミングでこれこれの求人を出しているのか?」という文脈の解明である。これがなされてこそ、当該の雇用が事業終了後も継続するか否かの考察や、継続させる必要条件についての議論も、より深い実質を備える。本稿は、「ふるさと雇用再生」の大枠と流れを、厚生労働省や大阪府庁の資料によって概観したあと、「サポートネットOSAKA」の求人情報の任意の発効日を対象に、労働需要発生の文脈を、受託企業・NPOのホームページの閲覧等によって解明していく。得られた暫定的な知見は次の2点。 1)本事業をブレイクダウンして個別事業の実施にこぎつけるまでのプロセスは、大阪府の場合、トップダウンの傾向が見られる。 2)「ふるさと雇用再生」で生み出されている少なからぬ求人が、行政のアウトソーシングの流れに位置づくものだ、と考えられる。現時点で言えることは次の3点。 1)国から発せられる事業の具体的な推進は、トップダウンで行政中心の方法に限られるわけではない(例えば京都府)。 2)民間企業の雇用保険料が、時限的な交付金として、経常的で福祉的な業務に投入されていることは正当性を欠く。恒久化が無理なら、せめて5年の時限措置とすべき。短期的事業の受託によって露命をつないでいる状態では、経営基盤の安定化も人材育成も望めまい。 3)雇用創出のアイデア出し・グランドデザイン描き・試行錯誤は、景気の良し悪しに関わらず、地味に続けられているべきボトムアップの営みであり、これを制度的に保障すべきである。