著者
筒井 美紀 TSUTSUI Miki
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.5-21, 2006-12

本稿は、大学生の授業理解・ノートをとる行為・授業外の学習の3つが、どのように関係しているかについて解明する。学生の多くが「知識の伝達─貯蔵モデル」への過剰適応によって大学で学ぶことへの準備が不充分である。それゆえ、まず必要なのは「いかにノートをとるべきか」的な指南ではなく、「大学での学びのレディネス」を高めさせることだ。ではどうすればよいか。こうした問題意識に基づき、次の4つの知見を得た。第1 に、大事なところが分からないことが多い学生ほど、キーワードしか板書されない場合に自分で文章化したり、板書がなされない口頭のみの説明をノートしたりすることが少ない。第2 に、大事なところが分からないことが多いか否かは、「前進的理解(ノートを早くとり終わった時に疑問点や重要点をまとめる)」の有無に影響しない。第3 に、「前進的理解」をしている学生は、していない学生と比べて、平均的に自学自習時間が長いものの有意ではない。第4に、「前進的理解」をしている学生は、していない学生と比べて、平均的に読書時間が有意に長い(2倍強)。これらの知見の含意は「読むことの聴くことへの効用」である。読書は「自律的オーディアンス」を育成するので、「大学での学びのレディネス」を高めるのだ。以上より、取り組むべき実践的課題は、いかに読ませ書かせるか・いかにフィードバックすべきか、すなわち、「言語獲得の受動性と応答性」が埋め込まれた機会を、とりわけ1 年次の早期段階において、構造化することである。
著者
筒井 美紀 TSUTSUI Miki
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.89-105, 2009-12

「ふるさと雇用再生特別交付金事業」は、どのような求人を生み出しているのか。本稿は、大阪府の2009年7月現在の状況について、行政的な手続きを確認しつつ明らかにする。本稿は、雇用創出の中間ないし最終集計の分析ではなく、「オン・ゴーイングな観察」に過ぎない。だが、次の強みを持つ―「当該企業やNPOは、なぜいまこのタイミングでこれこれの求人を出しているのか?」という文脈の解明である。これがなされてこそ、当該の雇用が事業終了後も継続するか否かの考察や、継続させる必要条件についての議論も、より深い実質を備える。本稿は、「ふるさと雇用再生」の大枠と流れを、厚生労働省や大阪府庁の資料によって概観したあと、「サポートネットOSAKA」の求人情報の任意の発効日を対象に、労働需要発生の文脈を、受託企業・NPOのホームページの閲覧等によって解明していく。得られた暫定的な知見は次の2点。 1)本事業をブレイクダウンして個別事業の実施にこぎつけるまでのプロセスは、大阪府の場合、トップダウンの傾向が見られる。 2)「ふるさと雇用再生」で生み出されている少なからぬ求人が、行政のアウトソーシングの流れに位置づくものだ、と考えられる。現時点で言えることは次の3点。 1)国から発せられる事業の具体的な推進は、トップダウンで行政中心の方法に限られるわけではない(例えば京都府)。 2)民間企業の雇用保険料が、時限的な交付金として、経常的で福祉的な業務に投入されていることは正当性を欠く。恒久化が無理なら、せめて5年の時限措置とすべき。短期的事業の受託によって露命をつないでいる状態では、経営基盤の安定化も人材育成も望めまい。 3)雇用創出のアイデア出し・グランドデザイン描き・試行錯誤は、景気の良し悪しに関わらず、地味に続けられているべきボトムアップの営みであり、これを制度的に保障すべきである。
著者
筒井 美紀 TSUTSUI Miki
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.51-67, 2008-12

本稿は、京都女子大学現代社会学部を2008年3月に卒業した4回生の、就職活動のプロセスと結果について、質問紙調査を元に解明する。具体的には、諸活動の開始時期や活動量について記述した上で、就職活動期間と最初の内定獲得時期の規定要因を明らかにする。先行研究が明らかにしてきた構造的・関係的要因と人的資本論的要因は、中堅女子大学の学生の場合、どのような影響力をもつのか。得られた知見は次の5点である : (1) 時間的側面から見た平均像は、3回生の11月頃に就活支援サイトに登録、12月に企業セミナー・会社説明会へ参加、というかたちで始まって、4回生の5月中旬に最初の内定獲得、6月上旬に4月以降勤務先の内定獲得と、約7ヶ月の活動、(2) 活動量から見た平均像は、エントリーシート送付企業数21社、説明会参加社数25~26社、筆記試験受験企業数12社強、面接受験企業数11社、会ったOB・OGの数1.3人(0人は全体の6 割)、内(々)定企業数2社強、(3) 「下宿・寮→独居・寮から通勤」の学生は、「自宅→親元から通勤」の学生と比べて、活動期間が有意に1.5ヶ月短くなっており、最初の内定獲得時期が有意に1.5ヶ月早い、(4) 総合職の学生は一般職の学生と比べて、活動期間が有意に1.2ヶ月長い、(5) OB・OGに会った学生は会わなかった学生と比べて、最初の内定獲得時期が有意に1.5ヶ月早い。以上に基づく理論的含意は、(1) 人的資本としての生活力・自活力の重要性、(2) OB・OG接触の重要性、(3) 買い手市場下の調査の必要性、の3点。実践的示唆は、(1) 3 回生前期までと4 回生後期の教育のさらなる徹底、(2) OB・OGに会うべしという助言、(3) 総合職志望者への適切な配慮、の3点である。The purpose of this paper is (1) to describe the process and result of job search of the students who graduated from the Faculty for the Study of Contemporary Society, Kyoto Women's University in March, 2008 and (2) to identify the factors of both the length of the job search and the timing of the first "naitei (unofficial decision)", from the analysis of the quantitative data. The following are the findings : (1) from the temporal aspect, the average is; register in job search support sites in Nov. 2006 → attend seminars in Dec. 2006 → take the first naitei in May 2007 → take the naitei she finally decided to go in June 2007, then the length is about 7 months, (2) from the quantitative aspect, the average is; entry sheets = 21 firms, seminar attendance = 25 to 26 firms, writing exam. = 12 firms, interview = 12 firms, OB/OG they met = 1.3 persons, na(nai)tei = 2 firms, (3) the length of job search of "living alone or dorm. → living alone or dorm." type is 1.5 months shorter and their timing of the first naitei is also 1.5 months earlier than those of "living with their parents → living with their parents" type, (4) the length of job search of sougou-shoku is 1.2 months longer than that of ippan-shoku, (5) the timing of the first naitei of the students who met OB/OG is 1.5 months earlier than that of the students who did not. Theoretical implications are (1) the importance of independence as human capital, (2) the importance of meeting OB/OG, (3) the need of further research under loose labor markets. Practical suggestions are (1) to make learning more intensive especially until the fifth semester and in the eighth semester, (2) to advise them to meet OB/OG, (3) to pay considerable attention to students who want to work as sougou-shoku.