著者
坪内 玲子
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.111-129, 2000-10

日本の伝統的な家族制度の下では、長男による家督の継承が原則であり、この原則は武士階級において遵守されていたと考えられている。実際には、人口学的な状況のために、長男による継承は必ず行われたわけではなく、長男早世のため弟が継承する場合があった。さらには、高い死亡率や低い出生率を背景に、婿養子や養子による継承が顕著な場合があった。筆者は、さまざまな藩における藩士の家譜に記載された継承の事例を集めて分析を行ってきたが、ここでは、萩藩における結果を示す。 萩藩藩士に関しては、一七世紀および一八世紀前半における二五三三件を対象として観察した。一七世紀における長男による継承は全継承件数の六三・九パーセント、実子(長男を含む)による継承は七四・三パーセントを占めていたが、一八世紀前半には、それぞれ五〇・八パーセント、五九・一パーセントへと減少した。これに対応し繪、婿養子による継承は、一七世紀の九・五パーセントから一八世紀前半の一六・〇パーセントに増加した。また、養子による継承は一〇・三パーセントから一七・七パーセントに増加した。この変化は、男子数の減少に対応している。他藩の藩士に関して得られた諸事実をも参照すると、武士階級における「家」に関する考え方や実行が、江戸時代の中である種の変遷を遂げたということができる。それは、男系に対する執着、さらには血縁に関するこだわりを緩和する動きであった。 本論文では、この他に、藩士における継承の身分階層差や誰が継承するかについての短期的な変動についても考察した。

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