- 著者
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宮本 ともみ
MIYAMOTO TOMOMI
- 出版者
- 岩手大学人文社会科学部
- 雑誌
- アルテス リベラレス (ISSN:03854183)
- 巻号頁・発行日
- no.92, pp.67-86, 2013-06
2011年3月11日,巨大津波をともなう東日本大震災が発生した。そして,東日本大震災は福島第一原発事故をも引き起こした。警察庁の発表によると,死者は15,883人,行方不明者は2,676人である(2013年5月10日現在)。また,復興庁の発表によると,避難者は309,057人で,その所在は全国47都道府県1,200の市区町村に及ぶ(2013年4月4日現在)。避難者のうち,いまだ避難所生活をしているのが125人,親族・知人宅等で生活しているのが15,205人である。残る293,727人は住宅等に入居済みとされているが,公営住宅や民間住宅のほかに仮設住宅および病院への入居も含まれている。震災から2年以上経過した現在でも,被災者の生活再建には様々な困難が立ちはだかっている。日本は,もともと災害王国といわれている。今後も起こりうる災害に対処するために,今回の大災害がもたらした問題の一つ一つについて検証が求められる。本稿では,今回の大震災がもたらした問題の一つとして「災害関連死」を取り上げる。東日本大震災の発生以降,災害関連死については,新聞等のマスメディアでも度々取り上げられて注目を浴びてきた。また,2012年4月11日,岩手弁護士会が岩手県および市町村に対して「災害関連死に関する声明」と題する要望を提出している。同年5月11日には,日本弁護士連合会も「災害関連死に関する意見書」を取りまとめて,復興大臣,内閣府特命担当大臣(防災)および厚生労働大臣等に提出している。一体,災害関連死をめぐる問題点はどこにあるのだろうか。筆者は,複数の被災自治体の委託を受けて災害関連死に関する審査をするために岩手県が設置した災害弔慰金等支給審査会の一委員を務めている。災害関連死をめぐっても,災害から引き起こされる問題の一つとして,今回の経験から今後の教訓として生かせることは何であるのかについて考えることは有益であろう。そこで本稿は,災害関連死がいかなる問題であるのかを把握したうえで,東日本大震災において現実に直面した経験をもとに,今後の課題を探ることを目的とする。さて,災害関連死問題を把握するために,次の2点を認識しておかなければならない。第1点は,災害弔慰金および災害障害見舞金の支給について定める「災害弔慰金の支給等に関する法律」(昭和48年9月18日法律第82号)の存在である。第2点は,同法にもとづく弔慰金および障害見舞金の受給対象者には,災害の直接的な被害による死亡者や障害者だけでなく,災害にともなう過労や環境悪化等が引き起こした内科的原因にもとづく死亡者や障害者も含まれることである。本稿では,次の2で,災害弔慰金の支給等に関する法律を紹介する。続く3で,各方面において用いられる「災害関連死」を取り上げる。そして4で,岩手県災害弔慰金等支給審査会の取組について述べる。最後の5では,今後の課題について触れる。