- 著者
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藤田 秀樹
- 出版者
- 富山大学人文学部
- 雑誌
- 富山大学人文学部紀要 (ISSN:03865975)
- 巻号頁・発行日
- no.61, pp.183-200, 2014
1970年代から現在に至るまでその旺盛な創作力でハリウッドを牽引し続けているフィルムメーカー,スティーヴン・スピルバーグのキャリアを概観すると,1980年代後半が彼の作風の大きな転換点として浮かび上がる。本論では,スピルバーグのキャリアにおける転換点を画するこれらの作品群のひとつであり,また彼の作品の中でも等閑視されてきた感のあるもののひとつでもある『太陽の帝国』を取り上げる。この『太陽の帝国』において,彼は少年と世界が痛々しい成熟へと至る軌跡を活写する。従来のハッピーエンディング的な大団円とは違って,どこか屈折や屈託を孕みつつ物語が終結していくのも,この作品がそれまでのスピルバーグ作品と一線を画するものであることを示唆するものと言えよう。物語を通して交錯するふたつの「通過儀礼」に焦点を当てながら,『太陽の帝国』という映画テクストを読み解くことを試みる。