著者
早坂 七緒
雑誌
人文研紀要
巻号頁・発行日
no.78, pp.181-207, 2014-09-16

1933年のナチス政権確立以降,ドイツ,オーストリアでは次々に議会制民主主義や言論の自由などが蹂躙されていった。大方の市民の対応は「脱深刻化」,すなわち大したことではないとする敗北的な態度だった。その下地を形成したのが第一次世界大戦以降,数度にわたり高揚と幻滅を体験した人びとの「魂の真空」であるが,さらにムージルも含めた作家や詩人たちが既成の概念や感性,ひいては旧来のモラルを疑問視する作品を発表して,ナチスの不条理な主張を説き伏せる言葉と理念の力を殺いだことでもあると思われる。ムージルは反ユダヤ主義を全否定していたが,政治については「態度表明しない」姿勢を貫いた。これは「精神」にのみ従い,党利党略などを離れて,単独者として判断するためであった。

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CiNii 論文 -  脱深刻化(Enternstung)という敗北の形―ナチス政権下のムージルの観察から― https://t.co/7NvugjuRkh #CiNii

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