著者
福永 俊輔 フクナガ シュンスケ FUKUNAGA SHUNSUKE
出版者
西南学院大学学術研究所
雑誌
西南学院大学法学論集 (ISSN:02863286)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.206-161, 2015-06

わが国が近代刑事再審制度を採用したのは、1880年制定にかかる治罪法においてである。治罪法は、フランス法に倣い、利益再審のみを認めた。その後、1890年制定にかかる旧々刑事訴訟法(明治刑事訴訟法)も治罪法とほぼ同様の規定を置いたが、1922年制定にかかる旧刑事訴訟法(大正刑事訴訟法)は、ドイツ法を継受し、利益再審のみならず不利益再審をも認めるに至った。しかし、戦後、日本国憲法が第39条において一事不再理を規定したことに伴い、まず応急措置法20条が「被告人に不利益な再審は、これを認めない」として不利益再審規定を廃止し、その後、1948年に制定された現行刑事訴訟法も、不利益再審を廃し、再審を利益再審に限って認めている。こうして、現行のわが国の再審制度は、「再びフランス型に戻った」と評される。わが国の再審制度の起源であるフランスに目を向けると、近時、刑事再審制度をめぐって、大きな動きがあった。昨年、「刑事確定有罪判決の再審および再審査の手続の改正に関する2014年6月20日の法律」(LOI n°2014-640 du 20 juin 2014 relative à la réforme des procédures de révision et de réexamen d'une condamnation pénale définitive。以下、フランス2014年法ということもある)の公布・施行に伴い、フランス刑事訴訟法における再審規定の改正が行われたのである。わが国の治罪法制定に当たり基礎とした1808年ナポレオン刑事訴訟法典は、わが国の刑事再審制度にとどまらず、近代的な再審制度の立法化の起源であるとされる。もっとも、すでに指摘されているように3)、そこで規定された再審規定は、極めて厳格なものであった。しかしながら、以後のフランス刑事再審制度は、個別の誤判事件とそれに対する世論を背景として改正を繰り返しながらその厳格性を改め、リベラルな性格を持つ再審制度として結実した。2014年のフランス刑事訴訟法の再審規定の改正は、こうした再審制度につき、全面的な改正を行ったものである。ところで、近時、わが国においては、刑事再審をめぐる動きが活発化している。昨年、袴田事件第二次再審請求審に対して、静岡地裁は、再審の開始と拘置の執行停止という判断を行った。2000年以降に目を広げても、布川事件、氷見事件、足利事件、東電OL事件で再審無罪の判断が下されている。しかし、その一方で、名張事件、福井女子中学生殺人事件では再審開始決定後に取り消しがなされ、その他北陵クリニック事件、飯塚事件、恵庭OL事件、大崎事件などでは再審請求が棄却されている。こうした再審に関する動きの中で、研究者やこれら再審事件に直接かかわっている実務家から、再審請求審における判断構造、証拠開示の問題、再審開始決定に伴う刑の執行停止の問題やいわゆる「再審格差」の問題などが指摘されている。フランス刑事再審制度は、わが国が現在抱えているこれら再審の問題を考察するうえで参考となる点が多く、きわめて示唆に富むように思われる。そこで、本稿は、フランス2014年法により新たに改正されるに至ったフランス刑事再審制度につき、従来のフランス再審制度との比較を通じてこれを紹介し、フランス刑事再審制度の近時の動向を確認することをその目的とするものである。

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