- 著者
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安井 眞奈美
- 出版者
- 国際日本文化研究センター
- 雑誌
- 日本研究 (ISSN:09150900)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, pp.259-273, 2014-09
本稿は、筆者が二〇一三年九月に、山口県大島郡周防大島町沖家室島にて譲り受けた一九三〇年代の三枚の古写真を、ハワイ移民関連資料として紹介し、その歴史的な位置付けを行うことを目的としている。 沖家室島からは、近代に数多くの人々が、朝鮮半島や台湾、ハワイへ出稼ぎに向った。特にハワイへの移民の中には、漁業関係の仕事で成功し、財を成したものも少なくはない。彼ら沖家室島出身者たちは、オアフ島ホノルル、ハワイ島ヒロにて、ハワイ沖家室会という同郷会を結成し、協力し合って生活をしていた。また沖家室島では、沖家室惺々会が機関誌『かむろ』を一九一四年に刊行し、一九四〇年までの二十七年間、沖家室島の情報や沖家室島出身の海外在住者の近況を取り上げ、情報を発信し続けた。 本稿で紹介する古写真三枚のうち、一九三〇年に撮影された写真1は、沖家室島出身のハワイ在住者たちが、ワイキキでピクニックをした際の記念写真である。なお本稿の分析により、一九二八年に撮影された同類の写真は、昭和天皇即位大礼記念の記念品としてハワイから沖家室島へ送られたことも明らかとなった。次に写真2は、「ホノルル日本人料理人組合員 大谷松次郎氏 厄払祝宴」と題された料理人たちの写真である。写真3は説明書きはないものの、写真2と同日に撮影されたと考えられることから、ハワイで漁業関連の仕事により大成功を収めた沖家室島出身の大谷松治郎が、一九三一年、四十二歳の厄年に際して、千人以上もの客を招待して盛大に行った祝宴の記念写真と推定できる。 これらの古写真は、近代におけるハワイ移民の生活、同郷者との協力と親睦、故郷とのつながりを具体的に示す貴重な写真である。また本稿の分析により、故郷・沖家室島へのハワイでの記念写真の寄贈が明らかとなったことから、これらの写真はハワイ在住者の故郷観を示す資料としても位置付けられるだろう。 最後に本稿では、貴重な歴史遺産である古写真を、地域で保存活用する方法についても検討した。今後も引き続き沖家室の人々と連携しながら、地域の歴史遺産の展示と活用について具体的な方法を模索していきたい。