著者
梁 青
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.167-178, 2013-09

『新撰万葉集』(八九三年)はそれぞれの和歌に一首の七言四句の漢詩が配された詩歌集である。本論文では、『新撰万葉集』上巻恋歌に付された漢詩を取り上げ、そこに見られる日本的要素を探り、先行した恋歌との関連を考察することによって、それと中国および勅撰三集の閨怨詩との相違を明らかにし、『古今集』成立前夜における王朝漢詩の展開の一端を浮き彫りにしてみたい。 まず、勅撰三集所収の閨怨詩はほぼ中国詩をまねたもので、その表現には作者の個性をほとんど見出せないことを解明した。そして、『新撰万葉集』の漢詩における「蕩子」「怨言」の使い方について検討した。それにより『新撰万葉集』の漢詩に多く描かれたのは、見たこともない長安の美女の閨怨ではなく、平安朝を舞台にした男女の恋であることが明らかになった。さらに、『新撰万葉集』の恋部の漢詩は恋歌をもとにして作られたので、和歌の内容と深く関わっている。心の中で恋焦がれても人に知られないように恋心を抑えたり、相手を忘れようとしてもかえって恋しさを募らせたりするという緻密な心情描写は、唐代までの中国詩や前代の日本閨怨詩にはほとんど見られず、恋歌の世界を強く志向しようとした結果だと考える。 以上から、『新撰万葉集』の漢詩は単なる中国詩の模倣にとどまらず、日本の文化や風土に合わせて独自の展開を遂げたことがわかる。これは王朝漢詩の成熟を物語り、国風文化成立の前兆と見ることができる。

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