- 著者
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久野 昭
- 出版者
- 国際日本文化研究センター
- 雑誌
- 日本研究 (ISSN:09150900)
- 巻号頁・発行日
- no.4, pp.p11-40, 1991-03
リップ・ヴァン・ウィンクルに当たる日本の伝説の主人公、浦嶋児は漁夫であった。或る日、釣果を得ぬままに、彼はどこまでも漕ぎつづけ、ついに美しい亀を釣りあげたが、その亀は海神の娘だった。海界(うなさか)の彼方で、おのが正体を彼に示した娘は、彼を自分の家に案内した。すなわち、漁夫は他界へと入った。現実のこの世界に帰還した時、浦嶋児はリップ・ヴァン・ウィンクルと全く同様に、この世と他界との間の時間経過の相違を体験しなければならなかった。しかし、浦嶋児伝説にはリップ・ヴァン・ウィンクル伝説とは異なるいくつかの要因があり、それらの要因は日本の文化的なアスペクトによって、とりわけ日本的な霊魂観と他界観によって条件付けられている。本稿の目的は、浦嶋児伝説の検討を通じて、その霊魂観・他界観を明らかにすることにある。