- 著者
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多ヶ谷 有子
- 出版者
- 関東学院大学[文学部]人文学会
- 雑誌
- 関東学院大学文学部紀要 (ISSN:21898987)
- 巻号頁・発行日
- vol.133, pp.37-60, 2015-12
ドラゴンなり龍が現実世界に登場する伝承は、洋の東西にある。中世英国を語る『ブリタニア列王伝』では、生贄にされかかった少年の日の魔術師マーリンが地下に住む赤龍(ブリトン人側)と白龍(侵略するサクソン人側)とが戦う現場を王に見せる。『マビノギオン』では、毎年五月祭前夜に恐ろしい竜が咆哮し災いをもたらすが、王者兄弟が蜜酒で酔わせて封ずる。日本のスサノオによるヤマタノオロチ退治では、オロチの尾から剣を得る。この剣が、天皇の神器のひとつとなったと信じられていた。政権が貴族から武士に移るという大変革をもたらした源平の合戦で、この神剣は幼帝とともに壇ノ浦に沈んで失われた。この変革に対し、『剣巻』は、源氏の名剣が源氏の棟梁である頼朝のもとに再び集まってめでたいと肯定する。『平家物語』は、沈んだのが神剣そのものか模剣であるか、版によって異なり、諸本でやや語る立場に差はある。だが滅びの美学を語り、この世は無常、武家の世になってもそれは同じ、と仏教思想で一貫する。慈円『愚管抄』は、天皇を武家が守護するようになったので神剣は役割を終えて退場したと歴史を論理化した。これは牽強付会ではなく、史実の現実を、現代的と言える思考方法で叙述したものと評価できる。