著者
田端 真弓
出版者
大分大学教育福祉科学部
雑誌
大分大学教育福祉科学部研究紀要 (ISSN:13450875)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.225-240, 2015-10

体育・保健体育科における「集団行動」は,戦前を起点とすることが指摘され,これまでにも体育授業で取り扱うことは妥当でないと批判されてきた。しかし,現行の学習指導要領にもその行動様式が含まれ,それらを補完するように文部科学省の手引きが発行されている。また,運動の特性を踏まえることなく行動様式を美化した授業展開が提案されることもある。本稿では戦後の体育関係者によって展開された「集団行動」をめぐる議論について明らかにし,「集団行動」が指導の対象とされる理由を検討する。これを受けて体育授業のあり方と収斂した。内容は以下のように集約される。「集団行動」の導入にはアメリカ進駐軍の指導とそれによる文部省の通達,教師たちの混乱,児童生徒のモラルのなさが関わっていた。当時の体育教師たちは戦前の教育の影響とそれによる戦後の衝撃から新しい指導法を生み出すことよりも,戦前の秩序運動や教練をモデルとする「集団行動」の指導に回帰することを要望した。これらは能率,安全,秩序など一定の論理により成り立っていた。一方で,歴史的反省,体育授業の本質,教師の快感や美意識に着目し,「集団行動」を批判,危倶する声もあった。これまでにこのような議論を経てきたが,学習指導要領とそれを補完する手引きによる指導の構造は現存している。体育授業は現在,「指導と評価の一体化」の域に到達している。それをめざした体育授業を展開させようとするならば,「集団行動」に費やす時間はないと考えられる。

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