- 著者
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荻野 雄
- 出版者
- 京都教育大学
- 雑誌
- 京都教育大学紀要 (ISSN:21873011)
- 巻号頁・発行日
- no.128, pp.1-19, 2016-03
本稿は,ジークフリート・クラカウアー研究の継続として,主としてパリ亡命時代に書かれた『ジャック・オッフェンバックと彼の時代のパリ』を取り扱う。この作品は長らく単なる「軽い読み物」として軽視されてきたが,近年再評価を受けている。本稿では,近年の研究成果を概観しながら次の三つの点を示していく。第一に,この著作は虚しい好奇心から書かれたのではなく,この作品でクラカウアーはナチズムとの対決を意図している。第二に,この本に対する有名なアドルノの厳しい批判は,実は全く不当であると言わねばならない。第三に,この本で提示されたオッフェンバックのイメージは,後の映画理論で展開されることになる多くの要素を含んでいる。