著者
武島 良成
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学紀要 (ISSN:21873011)
巻号頁・発行日
no.129, pp.15-29, 2016-09

本稿は,沖縄県読谷村を1つの「戦争遺跡」と捉え,1945年4月1日の同村北西部の軍と住民の様子を掘り下げるものである。その際,アメリカ軍の様子を掴むために,「米海兵隊太平洋戦争記録」の各種レポートを活用する。これらのレポートには,連隊・大隊のものが含まれており,かなり細かなレベルで隊の動きを追うことができる。また,『読谷村史』の編纂過程でつくられた調査ファイルも使う。それらを,既知の諸情報と突き合わせ,この日の読谷村北西部の様相を深めていく。
著者
藤岡 秀樹
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学紀要 (ISSN:21873011)
巻号頁・発行日
vol.131, pp.85-98, 2017-09-30

日本における学校心理学の研究動向について2001 年から2013 年までの展望を行った。取り上げた展望の対象は,日本学校心理学会刊行の『学校心理学研究』に掲載された「心理・社会面」の論文が中心であった。展望のトピックとしては,チーム援助,援助要請行動,信頼感,共感性,学校適応,ストレス,特別支援教育,その他の研究の8 つであった。最後に,研究動向のまとめを,援助サービスと「チーム学校」の視点から行った。
著者
荻野 雄
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学紀要 (ISSN:21873011)
巻号頁・発行日
no.128, pp.1-19, 2016-03

本稿は,ジークフリート・クラカウアー研究の継続として,主としてパリ亡命時代に書かれた『ジャック・オッフェンバックと彼の時代のパリ』を取り扱う。この作品は長らく単なる「軽い読み物」として軽視されてきたが,近年再評価を受けている。本稿では,近年の研究成果を概観しながら次の三つの点を示していく。第一に,この著作は虚しい好奇心から書かれたのではなく,この作品でクラカウアーはナチズムとの対決を意図している。第二に,この本に対する有名なアドルノの厳しい批判は,実は全く不当であると言わねばならない。第三に,この本で提示されたオッフェンバックのイメージは,後の映画理論で展開されることになる多くの要素を含んでいる。
著者
太田 耕人
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学紀要 (ISSN:21873011)
巻号頁・発行日
no.129, pp.125-140, 2016-09

英国初期近代演劇の手紙の演劇的用法に迫るため,英国演劇の黎明期から17 世紀末までに英語で書かれ,テクストが現存して入手できる劇を調査し,手紙の用いられた例を収集した。この序論では15世紀までの用例を分析した。中世の典礼劇,サイクル劇などでは,当初"letter" は神の力や奇跡をしめす「文字」の意で使われ,やがて布告,令状など「公文書」の意味で用いられた。しかし,手紙を「差出人が(その場にいない)特定の受取人(たち)にたいして,何らかの情報を個人的に通信するため送る書面」と定義すると,「手紙」と呼べる"letter"の用例は見当たらない。識字率が低かった中世の民衆の劇に,手紙が現われないのは当然であろう。また,単純明快な寓意的図式を好む道徳劇には,手紙を利用した複雑な筋立ては必要なかった。 「手紙」が初めて現れるのは,1497 年の『フルゲンスとルクリース』であった。ルネサンスの人文学の洗礼を受けて,ギリシア・ローマ演劇を知る知識人が,ある程度の複雑さをそなえた劇を書いて,手紙が英国演劇に現われたと考えられる。