著者
安藤 広道
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.203-246[含 英語文要旨], 2009-03

本稿の目的は,東日本南部以西の弥生文化の諸様相を,人口を含めた物質的生産(生産),社会的諸関係(権力),世界観(イデオロギー)という3つの位相の相互連関という視座によって理解することにある。具体的には,これまでの筆者の研究成果を中心に,まず生業システムの変化と人口の増加,「絵画」から読み取れる世界観の関係をまとめ,そのうえで集落遺跡群の分析及び石器・金属器の分析から推測できる地域社会内外の社会的関係の変化を加えることで,3つの位相の相互連関の様相を描き出すことを試みた。その結果,弥生時代における東日本南部以西では,日本列島固有の自然的・歴史的環境のなかで,水田稲作中心の生業システムの成立,人口の急激な増加,規模の大きな集落・集落群の展開,そして水(水田)によって自然の超克を志向する不平等原理あるいは直線的な時間意識に基く世界観の形成が,相互に絡み合いながら展開していたことが明らかになってきた。また,集落遺跡群の分析では,人口を含む物質的生産のあり方を踏まえつつ,相互依存的な地域社会の形成と地域社会間関係の進展のプロセスを整理し,そこに集落間・地域社会間の平等的な関係を志向するケースと,明確な中心形成を志向するケースが見られることを指摘した。この二つの志向性は大局的には平等志向の集落群が先行し,生産量,外部依存性の高まりとともに中心の形成が進行するという展開を示すが,ここに「絵画」の分析を重ねてみると,平等志向が広く認められる中期において人間の世界を平等的に描く傾向があり,多くの地域が中心形成志向となる後期になって,墳丘墓や大型青銅器祭祀にみられる人間の世界の不平等性を容認する世界観への変質を想定することが可能になった。このように,物質的生産,社会的諸関係,世界観の相互連関を視野に入れることで,弥生文化の諸様相及び前方後円墳時代への移行について,新たな解釈が提示できるものと思われる。

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