- 著者
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平高 典子
- 出版者
- 玉川大学芸術学部
- 雑誌
- 芸術研究 : 玉川大学芸術学部研究紀要 (ISSN:18816517)
- 巻号頁・発行日
- no.7, pp.13-27, 2015
幸田延は、1909 年11 月から1910 年7月の間、東京音楽学校を休職してヨーロッパに滞在し、主にドイツのベルリンとオーストリアのウィーンで、また帰路フランスのパリとイギリスのロンドンで、音楽事情を視察した。その間したためられた日記から、演奏会鑑賞、音楽学校及び学校の音楽授業の参観、レッスン受講、音楽関係者との交流など、多彩な活動の内容が明らかになった。 日記における音楽関係の記述からは、彼女が、深い音楽性・的確な批判能力・過去や同時代音楽に対する豊富な知識と洞察力を持っていたことがうかがえる。これらの能力は、滞在によってより強まったであろう。また、当時彼女が置かれていた音楽界は楽家のネットワークというべきものが機能しており、そのネットワークと関わる音楽家たちと交流していたことも判明した。 帰国後延が東京音楽学校に復帰することはなく、ヨーロッパの音楽や音楽教育をライブで体験して得た知識や批評能力が十全に生かされたわけではなかったといえよう。