- 著者
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半田 結
- 出版者
- 関西福祉大学社会福祉学部研究会
- 雑誌
- 関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.1, pp.31-42, 2016-03
本論は,『日本絵巻大成』を手掛かりに,わが国で最初期の絵である絵巻に描かれた病の絵を分析し,病の図像の意味と意義について述べ,病の図像は古代中世の我々の祖先が生き延びていくためには必要欠くべからざるものであったことを明らかにしている.絵画は仏教と共に伝えられたため,その歴史は,礼拝の対象である仏画として描かれることに始まる.平安後期になるとわが国独自の文字や絵の描き方が生まれる.このころから貴族階級や仏教関係者を中心に絵巻が盛んに制作され,鎌倉時代には武家から庶民階級にまで広がっていく.この時期の絵巻を集めたものが『日本絵巻大成』である.ここに描かれた病の図像を抽出・分類して,その描かれ方を整理した.その結果,当時の病の概念は広く曖昧なものだったこと,姿の見えない曖昧な病に対応するには病を可視化した絵がふさわしかったこと,見えない病を描く図像には病の原因と共に仏の御力が描きこまれていること,病を取りまく多数の人々の存在は様々なレベルでの病への関わり方があることが明らかになった.病という個人の体験に形を与えて普遍化し,共有することは,芸術の機能であるとともに,社会の一員として生きる大きな支えであったと結論づけている.