- 著者
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中井 裕
砺波 謙吏
大村 道明
大串 由紀江
- 出版者
- 養賢堂
- 雑誌
- 畜産の研究 (ISSN:00093874)
- 巻号頁・発行日
- vol.68, no.3, pp.332-338, 2014-03
東日本大震災(以下,「大震災」)の発生は,岩手県,宮城県,福島県を中心に畜舎等の損壊や家畜の死亡・廃用といった直接的な被害をもたらした。こうした直接的な被害が報告される一方で,電気・水道等の供給停止,飼料工場の被災,交通網の遮断や燃料不足等が,家畜の生産・飼養管理や物流等に影響をおよぼし,生産物の廃棄や資質低下,資材の入手先や販売先の確保に困難を極めるといった二次的影響・被害ももたらした。さらに,東京電力福島第一原子力発電所の事故は,稲ワラや堆肥,圃場を放射能汚染し,出荷遅延,汚染堆肥の除去・保管等を余儀なくされ,風評被害による畜産物消費の低迷を惹起(じゃっき)した。このように,大震災の発生に伴う畜産経営への被害・影響については広範であったが,一方で個々の畜産経営が受けた影響は,同じ地域であっても地理的条件,周辺の社会インフラ寸断状況により異なるものであった。再生・復興の取り組みはまだまだ道半ばであり,避難している者,原発事故による影響がまだまだ残る地域もあるが,被災地で畜産経営を取り巻いてどのようなことが起き,生産活動継続でどのように苦労したかを横断的に整理し,記録等にとどめておくことは,被災地の着実な復興の歩みの上で,また今後のわが国の畜産経営の維持・安定的な発展に重要なことである。