- 著者
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小林 美紀
- 出版者
- 千葉大学大学院人文社会科学研究科
- 雑誌
- 千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:13428403)
- 巻号頁・発行日
- no.17, pp.199-214, 2008-09
アイヌ語では名詞を抱合した動詞形というのが見られる。先行研究では他動詞の主語抱合、他動詞の目的語抱合、自動詞の主語抱合があり、抱合される名詞の意味役割は他動詞の対象、自動詞の対象、充当接頭辞によって道具や場所も可能であり、名詞+自動詞の場合、その動詞は非対格自動詞であることがすでに指摘されている。本稿ではこれを踏まえ、動詞に名詞が抱合され結果として、名詞句を一つ取る一項動詞が形成される場合、残りの一つを埋める名詞はその意味役割が動作主である場合、対象である場合、(抱合された名詞の)所有主である場合もあり、ときには基本形の項ではない場合もあるが、いずれの場合も格表示は主格となり、主語となることを述べる。そして、一項動詞が使役接尾辞を取らずに名詞を抱合する際には、一項動詞に名詞が直接抱合される場合であっても、動詞に充当接頭辞が接頭した上で名詞が抱合される場合であっても、その動詞は対象を主語とする非対格動詞であることを述べる。