- 著者
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石田 頼房
- 出版者
- 東京都立大学都市研究センター
- 雑誌
- 総合都市研究 (ISSN:03863506)
- 巻号頁・発行日
- no.43, pp.p21-35, 1991-09
衛生学者としての森林太郎(鷗外)の仕事に関する一連の研究の一つである。今回とり上げるのは,鷗外の市区改正論である。鷗外の市区改正論としては「市区改正ハ果シテ衛生上ノ問題ニ非サルカ」が有名であるが,東京医事新誌に連載されていたこの論文は未完であり,難解でもある。これに対して「市区改正論略」は,『国民の友』という一般向けの雑誌にまず発表されただけに,短い論文であるが,その中に極めて分かりやすく,しかも要領よく,鷗外の市区改正論が述べられている。論文は「近心と遠心との利害」「離立と比立との得失」「細民の居処」の3項目よりなる。近心と遠心とは,現在の言葉でいえば一極集中か多心型かという都市構造の問題であり,鷗外はロンドン,パリあるいはウィーンの例を引きながら,遠心すなわち多心型の都市構造が望ましいと説く。離立と比立は,日本の建築用語では適当な言葉がないが, ドイツ語のoffene Bauweiseとgeshlossene Bauweiseのことで,鷗外はヨーロッパの都市が比立・高密の解決に苦労していることを紹介しながら,日本は現在離立であるのを大事にすべきだと説く。また,細民の居処では,リヴァプールの例なども引き,単にクリアランスするだけではなく,低所得者むけの住宅供給をともなう必要があることを説く。