- 著者
-
星野 祐子
- 雑誌
- 十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
- 巻号頁・発行日
- no.47, pp.91-104, 2017-03-24
近代日本における外来語の受容と定着過程をみてみると、明治期は、文明開化をきっかけに西洋語由来の外来語が、日本語の語彙体系に大量に組み込まれた時期としてみなすことができる。続く大正期は、外来語のカタカナ表記が徐々に定着し、表記の標準化が図られた時期として、そして、昭和初期は、大正期に大衆化した外来語が徐々に整理され、定着していく途上の時期として捉えることができる。さて、外来語の流入は、新しい文化の流入と等しいわけだが、新しい文化として、庶民に最も身近であったものは、おそらく食文化ではないだろうか。そこで、本研究では、グルメ雑誌の先駆けである『月刊食道楽』を資料に、明治末期、昭和初期における外来語の使用実態とその機能を分析する。庶民生活の中で、「食」にまつわる外来語はどのように表現されたのだろうか。 明治期『食道楽』と昭和期『食道楽』をそれぞれ比較したところ、明治期『食道楽』は、欧米の食文化を伝えるために、言わば文脈上必須の語として外来語が用いられていたことが明らかになった。そのため、読み手への工夫として、ルビや付記の活用がみられた。ただし、日本語文における外来語の取り入れ方については、パターンがあるわけではなく、形式に原語の名残がみられることも多かった。和語と外来語の結合についても、現代から言えば違和感のあるものも多く、廃れていった結合パターンも散見された。また、外来語を使用することでの文体面での効果としては、スタイリッシュな響きの演出、カタカナ表記の使用による漢字・ひらがなとの差別化などが挙げられる。そして、昭和期『食道楽』では、外来語の使用がより一層戦略的になった。外来語使用に、洗練された現代的な印象を求めるのは明治期と相違ないが、文脈の助けを受け、皮肉や滑稽さの伝達に外来語が効果的に使われるようになったのである。この点に明治期と異なる外来語の使いこなしを認めることができる。