著者
江口 祐輔 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
no.13, pp.178-182, 2007-03-31

近年我が国ではイノシシによる農作物被害が増加している。農作物被害を防ぐためには,イノシシの行動を把握することが重要となるが,イノシシの行動学的研究は少ない。そこで本研究では,イノシシの行動制御技術開発のための基礎的知見を得ることを目的として,超音波を含む音刺激およびブタ由来のニオイ刺激(唾液フェロモンおよび発情・非発情時の尿)に対するイノシシの行動を調査した。実験1(音刺激に対する反応)では,飼育下のイノシシ4頭(雄2頭,雌2頭)を供試した。実験時は個別飼育檻に入れて1頭ずつ音を提示した。中-高周波数で10k~80kHzの8種類,中一低周波数で2k~5Hzの9種類に設定したサイン波の音を,超音波発生装置を用いて発生させた。音の提示時間内の反応を記録した。超音波に対してイノシシは,「静止」,「スピーカー定位」,「スピーカー探査」の反応を示した。500Hz及び200Hzで忌避反応と思われる「逃避」,「身震い」を示した。その他の中-低周波数の音に対しては忌避反応は見られなかった。これらのことから,イノシシは超音波を嫌うことは無いが,特定の周波数の音に対して忌避反応を示し,音による農作物への被害防除に有効である可能性が示唆された。実験2(ブタ由来のニオイ物質に対するイノシシの反応)では,飼育下のイノシシ7頭(雄2頭,雌5頭)を供試した。ニオイ物質には,アンドロステノンと雄ブタの唾液,雌ブタの発情期の尿と非発情期の尿,対照として蒸留水を用いた。ニオイ物質はイノシシの鼻の高さに調節した提示装置に入れて設置した。提示後30分間のイノシシの行動を記録した。雄イノシシのニオイ嗅ぎ行動は,雌ブタの発情尿において他のニオイよりも多く発現し,雌イノシシでは雄よりもニオイ嗅ぎ行動の発現割合が高かった。雌のニオイ嗅ぎ行動は,特に雄の唾液において他のニオイよりも多く発現した。雄イノシシでは,発情尿と非発情尿を提示した時,ニオイ物質に近いエリアに滞在する割合が高かった。飼育個体が,異性のフェロモンを含むニオイに強い反応を示したことから,ニオイによるイノシシ誘引効果が示唆された。

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