著者
岡部 光太 福泉 洋樹 河村 あゆみ 加瀬 ちひろ 植竹 勝治
出版者
動物の行動と管理学会
雑誌
動物の行動と管理学会誌 (ISSN:24350397)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-7, 2023-03-31 (Released:2023-05-17)
参考文献数
12

キリンはアフリカ原産の樹葉採食者である。先行研究では樹葉だけでなく、樹皮も採食するとされるが、日本在来樹種の樹皮への選好性の有無は明らかではない。そこで本研究では飼育下キリンを対象に行動観察を行い、選好性を調査した。調査期間を景観樹の状態からLT期(5-8月)とEE期(10-2月)に分け、観察を行った。与えた樹種は、シラカシ、サクラ、ニセアカシア、アキニレ、トウネズミモチ、ヤマモモ、エノキ(京都府内山林より伐採)であった。調査の結果、ニセアカシア、アキニレは他の樹種に比べ樹皮採食比が高かった(P < 0.05および0.01)。一方、エノキ、シラカシは他の樹種に比べ有意に樹皮採食比が低かった(P < 0.05および0.01)。つまり、選好性があると考えられた。樹皮採食比と採食行動発現スコア数には正の相関があり(rs = 0.56および0.75, P < 0.01)、キリンの採食エンリッチメントにおいて、樹皮を利用する樹種の給餌は、種本来の行動の促進につながると考えられた。
著者
植竹 勝治
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理研究会誌 (ISSN:09166505)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.57-63, 1991-09-17
被引用文献数
2

牛と人の電気生理学的反応の類似性に基づき、牛にも人と同じ色覚メカニズムが存在すると仮定し、色覚異常の場合には識別が困難な色パネルの組合せを用いて、2者択一の識別学習手続きにより、ホルスタイン種育成牛の色覚検査を実施した。試験には生後約5ヶ月齢のホルスタイン種育成雌牛4頭を用い、野外に設置した迷路型の識別学習装置の左右にランダムに配置した赤と白の色パネルの赤側を報酬側として選択するよう予備訓練した。予備訓練は1セッション12試行とし、供試牛が赤側の識別を学習するまで続けた。識別学習の成立は、牛が12試行中10試行以上報酬側を選択することを基準に判断した。また、訓練の初期に牛が片側への位置偏好を示したので、位置偏好修正訓練を考案し、実施した。予備訓練の後、色覚異常の場合には識別が困難な赤と青緑(第1異常)、赤紫と緑(第2異常)、青と緑(第3異常)の3組の色パネルを用いて、それぞれ前者を報酬側とする識別学習(本試験)を順に10セッションづつ実施した。試行のやり方ならびに識別学習成立の判断は、予備訓練と同様に行った。さらに、本試験期間中に報酬側の識別が学習されなかった色の組合せについては、それが真に色パネル間の識別困難によるものかどうかを追試験により確認した。追試験では、本試験期における牛毎の学習状況に応じて、試験期間の延長あるいは位置偏好修正訓練の導入を行った。その結果、赤と青緑の組合せでは、本試験期間中に、すべての供試牛赤側の識別学習を成立させた。赤紫と緑の組合せでは、逆に、すべての供試牛が本試験の10セッションでは赤紫側の識別学習を成立できなかったが、しかし、追試験期には、すべての牛が赤紫側の識別学習を成立させることができた。青と緑の組合せでは、1頭の供試牛しか本試験期間中に青側の識別学習を成立することができなかったが、追試験によって他の3頭もすべて青側の識別学習を成立させた。したがって、ホルスタイン種牛が人と同じ色覚メカニズムを有するならば、その色覚は正常な3色型であることが示唆された。 日本家畜管理研究会誌、27(2) : 57-63.1991. 1991年5月24日受理
著者
石川 圭介 江口 祐輔 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.J594-J604, 2001-10-25
被引用文献数
1

本研究では,イノシシへの嫌悪刺激としてイヌを利用することが有効か否かを検証するため,イヌとイノシシの対面テストを行った.供試犬には1頭の警察犬と4頭の家庭犬を用い,供試猪には10ヵ月間飼育管理された約16カ月齢の個体6頭を用いた.対面は供試犬および供試猪を実験施設に馴致した後,1日3回,8:00~9:00,12:00~13:00,16:00~17:00の時間帯に行い,各供試犬を2日間で6頭すべての供試猪に対面させた,供試犬は供試猪との対面が始まると,対面前と比較して有意に供試猪の方に視線を向け(P<0.01),供試猪に向かって吠えて(P<0.05),警戒を示した.また,吠えの頻度には個体によって差がみられた(P<0.01).供試犬の供試猪に対する注視と吠えは,供試猪が走って逃げる直前の3秒に有意に多くみられ(それぞれ,P<0.05,P<0.01),この二つの行動が供試猪にとって嫌悪刺激となっていることが示唆された.本研究の結果,イノシシに対して回避反応を引き起こさせるイヌの行動は,視線を対象に向ける,対象に向かって発声するなどであったが,これらの行動はイヌによって個体差が大きかった.このことから,イヌをイノシシに対する嫌悪刺激として効果的に用いるためには,それに適したイヌの行動を見極め,行動に基づいて個体を選択する必要があると考えられた.
著者
植竹 勝治 山田 佐代子 金子 一幸 藤森 亘 佐藤 礼一郎 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-5, 2014

都市部住宅地に生息するノラネコの健康状態および繁殖状況を確かめるため、我が国の代表的な大都市のひとつである横浜市の住宅地において疫学調査を実施した。調査では、繁殖データ(雌306匹)の収集と生化学および感染症に関する血液検査(雄雌計31匹)を行った。調査対象のネコは全て捕獲-不妊去勢-復帰プログラムの対象個体であった。不妊手術時に妊娠していた雌ネコの割合は4月に最高値(58.6%)を示し、3月から7月にかけて比較的高値を示した。平均一腹産子数(±標準偏差)は3.8±0.5匹であった。血液検査において対象個体の何頭かは基準値外の値を示したが、猫白血病および猫免疫不全の両ウイルス感染症は全頭陰性であった。これらの結果から、横浜市の住宅地におけるノラネコの血液性状および繁殖状況は、健康な家庭ネコに比較して、概ね良好であった。このことは、不妊去勢手術に基づくいわゆる「地域猫」活動を推進する上で参考になる。
著者
太田 光明 塩田 邦郎 政岡 俊夫 和久井 信 田中 智夫 植竹 勝治
出版者
麻布大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

地震前の動物の異常行動は、電磁波など地震前兆を感知した動物のストレス反応の一つであろうとの仮説のもとに研究を重ねてきた。しかし、ラット、ビーグル犬など「実験動物」に対して電磁波照射を繰り返しても、明確な異常行動は見られない。一方、ヒトと日常的に生活している「家庭犬」を用いたところ、6頭のうち、少なくとも2頭に顕著な異常行動を認めた。すなわち、1)マウスやラットのように「実験動物」として用いられる犬種は、ほとんどビーグル犬である。個体による違いを含め、犬の特性のいくつかを喪失しているとしても不思議はない。人による改良が進めば進むほど、電磁波異常など非日常的な物理現象を感じる必要性もなくなる。実際、本研究において電磁波の影響は見られなかった。この研究成果を遺伝子解析に応用した。2)遺伝子解析を進めるためには、プライマーが必要であり、犬遺伝子では、CRH、DRD2、DRD4など極めて少数しか判明していない。本研究では、はじめにCRH遺伝子の多型について検討した。しかし、33犬種37頭を解析した結果、遺伝子多型は検出されなかった。つまり、CRH遺伝子が「地震感知遺伝子」の可能性は低い。一方、兵庫県南部地震の直後、一般市民から集められた前兆情報のなかには、古来からの地震前兆情報であると考えられてきた夥しい数の報告が含まれていた。特に、動物の前兆的異常行動に顕著であった。また、阪神・淡路大震災の前兆情報として、犬で約20%、猫で約30%が異常行動を示したという。こうしたことから、3)本研究では、富士通株式会社ならびに株式会社NTTドコモ関西との産学協同体制でこの「動物の異常行動」の情報収集システムの構築に取組み、プロトタイプのシステムを完成させた。モニター登録者が暫時増加し、平成16年3月1日現在で、50人を数えた。
著者
石渡 俊江 植竹 勝治 江口 祐輔 田中 智夫
出版者
Japanese Soceity of Livestock Management
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.179-184, 2007-12-25 (Released:2017-02-06)
参考文献数
18

本研究の目的は、肉牛の屠殺時血液性状と肉質における夏季と冬季の違いを調査することであった。夏季(18.9〜28.4℃)に15頭、冬季(4.9〜7.0℃)に20頭をトラックで近くの屠場へ輸送した。牛は屠場の待機ペンで一晩休憩した後、1頭ずつ屠殺された。血漿コルチゾール濃度と血中グルコース濃度は、冬季より夏季に有意に高くなった(ともにP<0.01)。血清pHと血清総タンパク質濃度は、冬季より夏季に有意に低くなった(ともにP<0.01)。これらの結果から、夏季は牛にとってより過酷な状況であることが示唆された。その主な原因としては、屠殺前に一晩中絶水されたことが考えられた。血清遊離脂肪酸濃度は、夏季より冬季に有意に高くなった(P<0.01)。血清ASTと血清ALTの活性は、夏季より冬季に有意に高くなった(ともにP<0.05)。冬季にみられたこれらの生理反応は、屠殺前に一晩中絶食されたことによると考えられた。しかし、これらの生理反応は肉質に影響するほどではなかった。さらに、人による牛の扱いにも季節による違いがみられなかった。本研究の結果から、屠殺前に一晩、完全に絶水することは家畜福祉的見地からも避けるべきであると考えられた。
著者
植竹 勝治 中谷 治奈 増田 尚子 吉田 善廣 江口 祐輔 田中 智夫
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
vol.17/18, pp.191-193, 2009-03-31

γ-アミノ酪酸 (GABA) の経口投与が肉用牛の長距離輸送および出荷・屠畜時のストレスを低減するかどうかを調べた。試験1では,対照区の去勢牛4頭に20mLの蒸留水を,処理区の去勢牛4頭に体重当たり10mgのGABA粉末を20mLの蒸留水に溶解した水溶液を,それぞれ130.1kmの陸路輸送直前に経口投与した。分散分析の結果,供試牛の唾液中コルチゾール濃度に対する処理と輸送経過時間との交互作用は,経過時間が60分までは有意 (P<0.05) であったが,120分以降については有意ではなくなった。試験2では,肥育牛20頭を5頭ずつ4処理区に分け,屠畜場への輸送前と翌朝の屠畜直前に,G区には13gのGABA粉末を100mLの蒸留水に溶解した水溶液を,S区には100mLの生理食塩水を,SG区には輸送前に生理食塩水と屠畜直前にGABA溶液を,それぞれ経口投与した。C区には輸送前も屠畜直前にも何も投与しなかった。多重比較検定の結果,いずれの処理区のウシの血漿コルチゾール濃度も,C区のウシよりも有意に低かった (全てP<0.01)。血漿アドレナリン濃度も,C区に比べ,S区のウシで有意に低く (P<0.05),G区のウシで低い傾向 (P<0.10) がみられた。これらの結果から,GABAの経口投与は,肉用牛の輸送および屠畜時のストレスを投与後数十分間は低減させることが確認された。
著者
石渡 俊江 植竹 勝治 安部 直重 江口 祐輔 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌 (ISSN:13421131)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.149-154, 2005-02-01
被引用文献数
2

環境エンリッチメントレベルが異なる飼育ペンでの牛の舐塩行動の発現についで調査するため、黒毛和種×ホルスタイン種の去勢雄牛を2回の反復実験において合計71頭(n=35,36)を供試した。供試牛は導入2週間後から、濃厚飼料を給飼する給飼通路と乾草を給飼する飼槽、水槽、休息場所からなる通常のペンの対照群(C群:n=11,12)、通常のペンに乾草が入るように改良したドラム缶(Φ58価×H90cm)を設置したドラム缶群(D群:n=12.12)、そのドラム缶の側面に人工芝(30×120cm)を巻き付けた身繕いドラム缶群(GD群:n=12,12)に分け、3つのペン(各ペン6.0×9.5m)で飼育した。固形塩(5kg)は導入後4.5ヵ月目から給飼通路に設置し、その後、朝夕の給飼後2時間に10分間隔で3日間連続して行動観察し、採血と体重測定を合わせて行なった。観察期間中に舐塩行動が観察された牛は、対照群16頭、ドラム缶群10頭、身繕いドラム缶群11頭と処理群間に差はみられなかった。観察された舐塩行動の持続時間は、ほとんどが20分未満であった。舐塩行動の前に発現した主な行動は、乾草の採食(25.9%)、休息(22.4%)であり、後に発現した主な行動は休息(28.3%)、乾草の採食(21.7%)であった。舐塩回数の多い個体ほど、休息回数(r=0.25,P<0.05)と反側回数(r=0.28,P<0.05)が多くなった。また、舐塩回数の多い個体ほど、血清インスリン濃度が高くなった(r=0.41,P<0.05)。さらに一度でも舐塩行動を発現した個体で、未発現の個体より血漿グルコース濃度が低くなった(P<0.05)。以上の結果から、固形塩を舐めることは、いずれの環境エンリッチメントレベルにおいても必ず何頭かの牛で発現し、休息や反側行動の発現とインスリン分泌を促し、消化・代謝を促進する可能性があることが示唆された。
著者
加瀬 ちひろ 寺師 楓 森岡 杏月 豊田 英人 植竹 勝治
出版者
Japanese Society for Animal Behaviour and Management
雑誌
動物の行動と管理学会誌 (ISSN:24350397)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.137-145, 2021-12-25 (Released:2022-01-12)
参考文献数
19

動物園でのふれあいがテンジクネズミの行動と生理に及ぼす短期的影響を評価するため、埼玉県こども動物自然公園にて10頭を対象に調査した。調査対象個体は15:00から15:30のふれあいイベントに用いられた。コルチゾル濃度を測定するため、各個体からふれあい開始10分前、終了10分前の2回唾液を採取した。また、ふれあい後1時間の行動を3分間隔の瞬間サンプリングで評価した。ふれあい前後の唾液中コルチゾル値差には、ふれあい実施の有無による差はみられなかったが(z=−0.06, P=0.953)ふれあい持続時間と摂食には負の相関(rs=−0.29, P=0.028)が、ふれあい回数と身繕いには正の相関(rs=0.30, P=0.021)がみられた。これらの結果からふれあいは極端な生理的ストレスを与えることはないが、時間と頻度の増加により軽度のストレスと関連する行動に短期的に影響することが明らかになった。したがって、長時間のイベントでは1頭あたりのふれあい時間に制限を設けることが推奨される。
著者
江口 祐輔 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
no.13, pp.178-182, 2007-03-31

近年我が国ではイノシシによる農作物被害が増加している。農作物被害を防ぐためには,イノシシの行動を把握することが重要となるが,イノシシの行動学的研究は少ない。そこで本研究では,イノシシの行動制御技術開発のための基礎的知見を得ることを目的として,超音波を含む音刺激およびブタ由来のニオイ刺激(唾液フェロモンおよび発情・非発情時の尿)に対するイノシシの行動を調査した。実験1(音刺激に対する反応)では,飼育下のイノシシ4頭(雄2頭,雌2頭)を供試した。実験時は個別飼育檻に入れて1頭ずつ音を提示した。中-高周波数で10k~80kHzの8種類,中一低周波数で2k~5Hzの9種類に設定したサイン波の音を,超音波発生装置を用いて発生させた。音の提示時間内の反応を記録した。超音波に対してイノシシは,「静止」,「スピーカー定位」,「スピーカー探査」の反応を示した。500Hz及び200Hzで忌避反応と思われる「逃避」,「身震い」を示した。その他の中-低周波数の音に対しては忌避反応は見られなかった。これらのことから,イノシシは超音波を嫌うことは無いが,特定の周波数の音に対して忌避反応を示し,音による農作物への被害防除に有効である可能性が示唆された。実験2(ブタ由来のニオイ物質に対するイノシシの反応)では,飼育下のイノシシ7頭(雄2頭,雌5頭)を供試した。ニオイ物質には,アンドロステノンと雄ブタの唾液,雌ブタの発情期の尿と非発情期の尿,対照として蒸留水を用いた。ニオイ物質はイノシシの鼻の高さに調節した提示装置に入れて設置した。提示後30分間のイノシシの行動を記録した。雄イノシシのニオイ嗅ぎ行動は,雌ブタの発情尿において他のニオイよりも多く発現し,雌イノシシでは雄よりもニオイ嗅ぎ行動の発現割合が高かった。雌のニオイ嗅ぎ行動は,特に雄の唾液において他のニオイよりも多く発現した。雄イノシシでは,発情尿と非発情尿を提示した時,ニオイ物質に近いエリアに滞在する割合が高かった。飼育個体が,異性のフェロモンを含むニオイに強い反応を示したことから,ニオイによるイノシシ誘引効果が示唆された。
著者
江口 祐輔 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
vol.13/14, pp.178-182, 2007-03-31

近年我が国ではイノシシによる農作物被害が増加している。農作物被害を防ぐためには,イノシシの行動を把握することが重要となるが,イノシシの行動学的研究は少ない。そこで本研究では,イノシシの行動制御技術開発のための基礎的知見を得ることを目的として,超音波を含む音刺激およびブタ由来のニオイ刺激(唾液フェロモンおよび発情・非発情時の尿)に対するイノシシの行動を調査した。実験1(音刺激に対する反応)では,飼育下のイノシシ4頭(雄2頭,雌2頭)を供試した。実験時は個別飼育檻に入れて1頭ずつ音を提示した。中-高周波数で10k~80kHzの8種類,中一低周波数で2k~5Hzの9種類に設定したサイン波の音を,超音波発生装置を用いて発生させた。音の提示時間内の反応を記録した。超音波に対してイノシシは,「静止」,「スピーカー定位」,「スピーカー探査」の反応を示した。500Hz及び200Hzで忌避反応と思われる「逃避」,「身震い」を示した。その他の中-低周波数の音に対しては忌避反応は見られなかった。これらのことから,イノシシは超音波を嫌うことは無いが,特定の周波数の音に対して忌避反応を示し,音による農作物への被害防除に有効である可能性が示唆された。実験2(ブタ由来のニオイ物質に対するイノシシの反応)では,飼育下のイノシシ7頭(雄2頭,雌5頭)を供試した。ニオイ物質には,アンドロステノンと雄ブタの唾液,雌ブタの発情期の尿と非発情期の尿,対照として蒸留水を用いた。ニオイ物質はイノシシの鼻の高さに調節した提示装置に入れて設置した。提示後30分間のイノシシの行動を記録した。雄イノシシのニオイ嗅ぎ行動は,雌ブタの発情尿において他のニオイよりも多く発現し,雌イノシシでは雄よりもニオイ嗅ぎ行動の発現割合が高かった。雌のニオイ嗅ぎ行動は,特に雄の唾液において他のニオイよりも多く発現した。雄イノシシでは,発情尿と非発情尿を提示した時,ニオイ物質に近いエリアに滞在する割合が高かった。飼育個体が,異性のフェロモンを含むニオイに強い反応を示したことから,ニオイによるイノシシ誘引効果が示唆された。
著者
堀井 隆行 相澤 里菜 福山 貴昭 宮田 淳嗣 川添 敏弘 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
Japanese Society for Animal Behaviour and Management
雑誌
動物の行動と管理学会誌 (ISSN:24350397)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-11, 2021-03-25 (Released:2021-06-09)
参考文献数
21

本研究では、愛着対象である飼い主の体臭が、飼い主との分離状態のイヌの行動に及ぼす影響を調べることを目的とした。健康で分離不安の既往歴のない一般家庭犬12頭を供試した。イヌに提示するニオイとして飼い主の靴下(愛着対象の体臭付着物)、牛干し肉(興味を示しやすいニオイ)、ラベンダー精油(リラクゼーション効果が報告されている芳香物質)、Control(コットンのみ)という4種類のニオイ刺激を選定した。各ニオイ刺激は、クッションカバーの裏側のポケットに入れて、サークル内でイヌに30分間提示した。このとき、実験室内にはイヌのみを残し、イヌの行動反応はビデオカメラで撮影した。ニオイ刺激の提示は、連続的に繰り返したが、4×4ラテン方格法を用いて提示順の影響を考慮した。飼い主の靴下に対する探査時間の長さは、ラベンダー精油よりも有意(P < 0.05)に長かった。Controlとの差は有意ではないものの、約半数のイヌがControlの倍以上の時間を飼い主の靴下の探査に費やしており、そのような個体は飼い主の靴下に付着した汗のニオイに対してより強い興味を示したと考えられる。また、飼い主の靴下を長く嗅ぐ個体は、ニオイ(クッション)周囲での伏臥・横臥位休息も長い(rs=0.661、P < 0.05)ことから、そのような個体は飼い主の体臭付着物に対して飼い主の代替として近接性を維持する愛着行動を示した可能性が考えられた。しかし、飼い主との分離に伴う発声の抑制作用については明確ではなかった。
著者
植竹 勝治 田中 瑞穂 野坂 香林 桑原 亮祐 山田 佐代子 金子 一幸 田中 智夫
出版者
Japanese Soceity for Animal Behaviour and Management
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.169-173, 2014-12-25 (Released:2017-02-06)

都市部住居地域等におけるノラネコの個体数および日中の移動距離に関する基礎的データを得るため、横浜市においてルートセンサス法におる野外調査を実施した。各調査地域(住居専用4地域とその他の用地区分4地域の計8地域)において、1日3回の徒歩によるルートセンサスを2010年から2013年のそれぞれ3月、7月、11月に実施した。ルート上にネコを発見するごとに、その地点を地図上にプロットした。住居専用4地域における平均個体数(8.7±3.9頭/10,000m^2)は、その他の用地区分4地域(3.6±2.2頭/10,000m^2)よりも有意に(P<0.05)多かった。未去勢雄の日中の移動距離(62.9±44.2m)は、去勢雄(34.0±24.7m)よりも長い傾向(P=0.06)にあった一方で、未避妊雌(30.0±20.0m)と避妊雌(33.1±17.4m)の移動距離に有意差は認められなかった。