著者
斉藤 日出治
雑誌
大阪産業大学経済論集 = OSAKA SANGYO UNIVERSITY JOURNAL OF ECONOMICS (ISSN:13451448)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.103-128, 2017-06-30

20世紀末から急進展したグローバル化は深刻な危機に直面している。グローバル化は,所得格差,地域格差を拡大し,中産階級を崩壊させ,大量の移民・難民を創出し,宗教紛争・民族紛争を激化させることによって,ついに反グローバリゼーションの反動を呼び起こした。イギリスのEU 離脱,米国におけるトランプ大統領の誕生,ヨーロッパ諸国における極右政党の台頭は,グローバル化の隘路に直面した諸国の反動を物語っている。この反動は,グローバル化の隘路を主権国家の強化によって打開しようとする。保護貿易を強化する,流入する移民・難民を排除し厳しく取り締まる,自国民の雇用確保を優先する,といった排外主義的な政策が強化される。 日本も同じ流れに棹さしている。経済の新自由主義的進展がもたらした雇用の不安定化,貧困の増大,所得格差と資産格差の拡大は,社会の監視の強化,治安の強化,そして国家の軍事化と排外主義への動きを強化し,立憲主義の危機,神権的国体論を触発している。 新自由主義とは,社会を市場の競争原理に委ねるシステムであり国家の非介入を原則とするにもかかわらず,新自由主義の行き詰まりが国家の軍事化および治安の強化と連動し,ひとびとの市民的自由を抑圧する動きが高まっている。本論では,このように一見すると逆説的にみえる経済と国家の動向を,市民社会の共進化という視点から再考する。この再考によって,経済における市場原理の進展と,国家における権威主義の台頭と,市民社会におけるポピュリズムという大衆的熱狂が相乗効果をともなって増幅する新自由主義の社会危機の動態を究明する。その究明を踏まえて,この社会危機を乗り越える連帯と協同の新しい共進化の方向を提示したい。

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