本稿は、(1)異なる学校に通うことで、子どもたちのあいだにどの程度の学力差が生じるのか、(2)どのような学校が効果的なのか(=学力を大きく向上させることができるのか)、という2つの問題について、ある市で行われた学力調査をもとに分析している。分析には、日本の社会科学領域で昨今注目を集めているマルチレベルモデル分析(Multilevel Model Analysis)を用いている。公立小学校・中学校で行われた学力テストをもとにした分析の結果、以下の2点が明らかになった。第一に、学力の差は、小学校・中学校を問わず、きわめて小さいということである。第二に、「効果的な学校」と「そうでない学校」のあいだに、決定的な違いは見いだせないということである。これは、こと学力テストの点数に限って言えば、現行の教育システム内で個々の学校・教員の努力でできることは限られているということを意味している。教育研究・教育行政に携わる人々は、この知見を真剣に受け止めて検討していく必要があろう。