著者
永谷 健 NAGATANI Ken
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 = Bulletin of the Faculty of Humanities and Social Sciences, Department of Humanities : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.35, pp.1-12, 2018

日本で企業経営者や起業家が啓蒙家や教育者の一面を持つのは、明治以降の産業化で当時の実業家たちが社会的なプレゼンスを著しく高めたことに始まる。その直接的な契機は、明治30年代半ばの成功ブームであろう。明治期をつうじて、彼らには「奸商」や「御用商人」といった悪評がついてまわったが、成功ブーム以降、彼らは模範的な成功者として扱われ始めた。成功ブーム自体は、日清戦争の戦勝ブーム後に到来した恐慌や時事新報が掲載した資産家一覧がもたらしたセンセーションなどを背景として生じた。その初期においては、書籍や雑誌で海外の富豪の伝記や言行録が積極的に紹介されていた。また、『実業之日本』は成功雑誌へと誌面を改めることで成功ブームの中心的な媒体となり、日本の「成功実業家」の事績を数多く紹介した。さらに、明治38年ごろから、同誌や一部の総合雑誌で、彼ら自身が語る論説やエッセイが大量に掲載され始めた。これには、「高等遊民」の増加が社会問題となった当時の社会状況が深く関係している。メディアの要請に応えて、成功実業家は若者の学歴志向や俸給生活志向を矯正し、彼らを「独立自営」へと導く啓蒙家として振る舞い始めた。そのなかで彼らは、自己の経歴や事績を正当化していった。

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【備忘】永谷健(2018)「明治後期における『成功』言説と実業エリート」, 『人文論叢』(35), pp.1-12 https://t.co/LvT612l8YO

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