著者
坂井 健
出版者
佛教大学国語国文学会
雑誌
京都語文 (ISSN:13424254)
巻号頁・発行日
no.9, pp.212-227, 2002-10-05

文明開化の象徴とも言える「牛鍋」は、魯文の『安愚楽鍋』を筆頭として様々な作品に、往時の流行の風俗として描き込まれているポピュラーな料理である。だが、では、いったいその「牛鍋」とはどんな鍋だったのか、中に入れる材料は何か。味付けはどうしていたのか。「牛鍋」を食べることにどんな意味があったのか、などと考えるとあまりはっきりしない。『安愚楽鍋』を中心に当時の文献を検討してみると、牛鍋は牛肉を使った鍋料理全般を指し、当初は、その料理方も一定していなかったこと、客が自分の好みをその場で言って調理してもらう、融通無碍な料理であったことが分かる。明治の初めは、牛肉は、西洋の学問を理解した開明的な行為であるとの意識のもとで食べられていたが、ほどなく気楽に食べられるおいしい食べ物として親しまれるようになっていった。

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