著者
多和田 裕司
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科
雑誌
人文研究 : 大阪市立大学大学院文学研究科紀要 = Studies in the humanities : Bulletin of the Graduate School of Literature and Human Sciences, Osaka City University (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.41-58, 2018

本稿は、臓器移植にかんするイスラームの倫理を検討することによって、現代社会においてイスラームがどのように実践されているかを示すことを目的としている。臓器移植は、コーランとハディース(ムハンマドの言行録)に基づくイスラームの伝統的な死生観にたいして倫理的な課題を突きつけてきた。しかし医療技術の進歩とそれによって得られる治療成果の高まりにともない、いまや世界中のイスラーム法学者の大半は、人体から人体への臓器移植をイスラームの教義からみて許されるものとしてとらえている。本稿では、イスラーム世界で臓器移植を肯定的にとらえる代表的なファトワ(イスラームにおける法的勧告)を紹介した後、臓器移植にかんするマレーシアの医療ガイドラインと同国におけるイスラームの権威が発したファトワを比較検討する。結論として、イスラームは、現代の生命倫理と共通する価値を持つ可能性を有していることが示される。イスラームは、イスラーム教義と非イスラーム的な価値が出会う境界上で、つねに現代社会に、より適合的な宗教へと変容を続けているのである。

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