著者
新名 隆志
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.11-26, 2017

本論文では,2007年のN.フセインの論文に端を発する,ニーチェ思想の虚構主義的解釈をめぐる議論を概観し,この解釈の妥当性と問題点を検討する。現代メタ倫理学における(改革的)虚構主義とは,道徳は実在しない虚構であるが,それを有効なフィクションとして利用すべきだとする立場である。フセインは,この立場をニーチェに帰することによって,ニーチェ思想を整合的に理解できると主張する。 A.トーマスやB.レジンスターは,このフセインの解釈に対する代表的な批判者である。彼らの批判の検討によって,虚構主義的解釈の本質的問題点が,価値一般の虚構主義的解釈それ自体では,ニーチェが提唱する力への意志の価値の優位性や価値転換を説明できないという点にあることが明らかになる。 しかしレジンスターやフセインは,この問題点を克服し,虚構主義的解釈の枠組みの中で価値転換を理解しうる道をいくつか示唆しており,それらの中には一定の説得力をもち得るものがある。 結論として,虚構主義的解釈は,それ自体で力への意志や価値転換の意義そのものを説明することはできないとしても,ニーチェが推奨する価値のメタ倫理学的地位と,価値転換を生じさせる誘因について, ニーチェの価値思想全体を最も整合的に理解させてくれるような説明を与えることができると言える。

言及状況

Twitter (3 users, 3 posts, 0 favorites)

収集済み URL リスト