著者
大塚 清恵
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.103-121, 2005-03-25

16年前(1988年)から鹿児島大学の共通教育において女性学講座を開いている。ジェンダー・フリー時代が到来し「女らしさ・男らしさ」が問い直されている今,大学生のジェンダー学への関心は高く,鹿児島大学の女性学講座も毎年50人〜300人の学生が受講している。この調査報告は過去2年間400人の受講生を対象に行ったアンケート結果に基づいている。調査内容は,一般・家庭・政治・教育・労働・性・法律・心理の八項目にわたり,調査対象とした学生の学部比率は工学部(37%),法文学部(28%),農学部(10%),理学部(7%),医学部(7%),教育学部(6%),水産学部(3%),歯学部(1%)であった。この論文では,全体の65%を占める工学部と法文学部の回答者の中から100人ずつ無作為抽出し,そのアンケート結果を男女別に分けて集計し性別比較分析を行った。調査対象者の数が少ないので,統計学的客観性は低いと思うが,アンケート分析から最近の鹿児島大学生の男女間の諸問題および性役割に対する考えを多少は浮き彫りにできると思う。今後も5年ごとに同じ調査をし,鹿児島大学生の男女関係に問する意識の変化を追っていきたいと思う。
著者
中嶋 哲也
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.77-92, 2014

本研究は、明治期に柔術が文化として再発見されていく過程について考察するものである。研究対象として、明治12(1879)年8月5日と25日に行われた2つの演武に注目した。この2つの演武には元米国大統領であったユリシーズ・グラントが鑑賞しにきていたためである。本論では、グラントが武術のどこに興味関心を抱いたのかを検討した。結果として、次の3つの知見が得られた。一つ目に、グラントは武術に関して伝統的側面に興味を持つような発言をしなかったことである。二つ目に、8月25日の演武は天覧であったが、当演武の直後、新聞等で武術の価値を見直すことが主張された。天覧演武は武術総体が伝統・文化として再発見されるきっかけの一つになったといえよう。三つ目に、8月5日の演武においてグラントはあらゆる武術のうち、特に柔術に興味を示していた。このことは、柔術が西洋の人々の目に興味深く映る、とその場に居合わせた日本人に印象付けたものと考えられる。
著者
日隈 正守
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.1-13, 2014

本論文では,日向・大隅・薩摩三箇国に亘る島津荘域の中で,大隅国内において国衙・国一宮(大隅国正八幡宮)と島津荘との間に対立関係があることを具体的な事例を通して指摘した。国衙・国一宮と島津荘との間に対立関係が生じた理由を島津荘立荘時に遡って考察し,島津荘立荘者平季基の大隅国府焼き討ち事件とその結果が国衙・国一宮と島津荘との対立の原因であることを解明した。
著者
新名 隆志
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.11-26, 2017

本論文では,2007年のN.フセインの論文に端を発する,ニーチェ思想の虚構主義的解釈をめぐる議論を概観し,この解釈の妥当性と問題点を検討する。現代メタ倫理学における(改革的)虚構主義とは,道徳は実在しない虚構であるが,それを有効なフィクションとして利用すべきだとする立場である。フセインは,この立場をニーチェに帰することによって,ニーチェ思想を整合的に理解できると主張する。 A.トーマスやB.レジンスターは,このフセインの解釈に対する代表的な批判者である。彼らの批判の検討によって,虚構主義的解釈の本質的問題点が,価値一般の虚構主義的解釈それ自体では,ニーチェが提唱する力への意志の価値の優位性や価値転換を説明できないという点にあることが明らかになる。 しかしレジンスターやフセインは,この問題点を克服し,虚構主義的解釈の枠組みの中で価値転換を理解しうる道をいくつか示唆しており,それらの中には一定の説得力をもち得るものがある。 結論として,虚構主義的解釈は,それ自体で力への意志や価値転換の意義そのものを説明することはできないとしても,ニーチェが推奨する価値のメタ倫理学的地位と,価値転換を生じさせる誘因について, ニーチェの価値思想全体を最も整合的に理解させてくれるような説明を与えることができると言える。
著者
村原(田中) 京子
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.81-93, 2002

18世紀初頭,ヨーロッパを制覇した商業都市ロンドンで,G. F.ヘンデルのイタリア・オペラが受け入れられ高く評価されたが,その文化土壌を探るために,先ず17世紀初頭に至るイギリス演劇(とりわけシェークスピア劇)と音楽の歴史を辿った。次に17世紀イギリスの社会変革(ピューリタン革命,王政復古,名誉革命)の中で,芸術文化が如何に崩壊,再興を繰り返していったかを考察,その上にヘンデル・オペラの受容を位置づけた。特に当時の新聞等の記録をOtto Erich Deutschの<Handel A Documentary Biography>(1955)から抽出考察した。また,当時のイギリス王室との関係,及びヘンデルがオペラ劇場経営の上で遭遇した様々な出来事(オペラをめぐるトーリー党とホイッグ党の争い,歌手の争い,敵対する劇場との争い等),社会的乳棒,オペラ界内部の乳棒に焦点をあて,ヘンデル・オペラの側面を求めたものである。
著者
大塚 清恵
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.85-102, 2005

現在,日本でサステーナブル・ツーリズム(持続可能な観光)として注目されているグリーンツーリズム(農山漁村滞在型観光)は,ニート青年を立ち直らせるオータナティブ教育として,また都会の子供たちに自然や食べ物のありがたさを体験をとおして学ばせる食育として注目を集めている。この論文では,日本の観光史を概説しニート問題を心理面から分析した後,グリーンツーリズムが都会育ちの若者や子供たちを活性化することに成功したいくつかの事例を紹介する。
著者
日隈 正守
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.1-10, 2017

本稿では,鎌倉初期に編纂された大隅国建久図田帳の記載事項について考察した。その結果,帖佐郡・蒲生院は大隅国内における交通上の重要地であるため大隅国衙が強い支配下に置きたいと考えていたこと、大隅国建久図田帳加治木郷・禰寝南俣項の大隅国正八幡宮領の記載が簡略であったのは、両地域が一種の混乱状態であった結果であること、大隅国菱刈郡内等に筥崎八幡宮浮免田が設定されている理由は、平安後期大宰府や筥崎八幡宮を事実上支配下に置いた島津荘領主藤原忠実が筥崎八幡宮浮免田設定に協力した結果であること等を明らかにした
著者
今 由佳里
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.73-77, 2017

The Hayato were a tribal people who lived in southern Kyushu in ancient times, mainly on the Osumi and Satsuma Peninsulas in what is now Kagoshima Prefecture. There was a traditional sacred music and dance performance called Hayato-mai in this area,which was performed at the imperial court during the Nara period. Some theories suggest that it was related to the ritual of obedience to the Yamato Court. Gagaku, the ancient imperial court music of Japan, has four genres, Bugaku, Kangen, Utamono, and Kuniburinoutamai, to the last of which belongs Hayato-mai.
著者
新名 隆志
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.1-21, 2013

Bernard Reginster が2006 年に著したThe Affirmation of Life は、独自の非常に説得的な解釈視点からニーチェ思想全体を包括的かつ体系的に捉える野心的な試みである。本論文の目的は、この著作のニーチェ研究史上の重要な意義を認めながらも、筆者自身のニーチェ解釈を踏まえつつその批判的検討を行うことにある。検討するのはReginster の解釈の幹となる部分であり、ニヒリズム、永遠回帰、力への意志という三つの主要思想とそれに関連する重要思想の解釈についてである。一では、ニヒリズムという問題の位置づけとその意味に関する彼の解釈について、いくつか問題点を指摘する。二では、永遠回帰肯定についての彼の解釈の問題点を指摘し、筆者がこれまでに公表してきた永遠回帰解釈がこの問題に解決を与えることを示す。三では、自己克服あるいは悲劇という問題についてのReginster の大きな誤解を指摘し、この誤りの本質が彼の力への意志の解釈の不完全性にあることを示す。
著者
下原 美保
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.25-37, 2006

本論では、江戸時代初期における王朝文化復興と住吉派興隆との関係について、後水尾院(一五九六~一六八〇)と住吉如慶(一五九九~一六七〇)を中心に考察を加えたものである。王朝文化復興の気運が盛り上がったこの時代に、如慶は後水尾院の勅命を受けて 「年中行事絵巻」 の模写を手掛けている。これは院が目指した公儀の復興の一環と考えられる。また、如慶は院の勅命によって 「聖徳太子絵伝」や 「多武峰縁起絵巻」 を制作し、東福門院の個人的な画事も手掛けている。これらの功が認められ、如慶は住吉派を設立することとなる。中世における絵の名士住吉慶恩の後継者として院が発案したものである。さらに、如慶・具慶父子は、天台座主の尭然法親王及び尭恕法親王に剃髪され、法橋の位を受けているが、二人の座主も院の弟であり皇子であった。以上のことを考慮すると、住吉派興隆には当時の王朝文化復興の気運と後水尾院周辺の皇族たちが大きく関わっていたということができる。
著者
和田 七洋
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.89-87, 2011

同じモティーフを反復的に使用することは視覚伝達デザイン作品においてよく見られる表現の一つである。モティーフをそのように利用することによって個と全体を同時に表し、それが与える印象は、その使われ方によって異なる。この論考では反復表現が使われている視覚伝達デザイン作品を収集、鑑賞し、それらの効果について考察を行い、それをもとに作られた自身の作品について述べる。
著者
日隈 正守
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.19-26, 2012

本論文では,現鹿児島県薩摩川内市東郷町藤川に鎮座している藤川天神に伝わる菅原道真伝説について考察した。その結果,藤川天神の菅原道真伝説は江戸後期に成立したと考えられること,菅原道真伝説が残っている地域は安楽寺(太宰府天満宮)領であったこと,藤川は安楽寺末寺である薩摩国分寺領であったと考えられ,薩摩国最北端地である出水郡と薩摩国における政治の中心地である高城郡とを結ぶ交通上の要衝であったこと等を明らかにした。
著者
鈴木 宜則
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.55-66, 2003-03-18

選挙区間の人口ないし有権者数の不均衡,言い換えれば,1票の価値に格差があるという問題は,頻繁に指摘され続けてきたにも拘らず,定期的に適切に是正されずに放置されている。1994年に衆議院選挙区画定審議会設置法で最多区と最少区の人口格差の限度を基本的に2倍未満と明確に定めた効果は殆どなく,最近のいわゆる5増5減措置にも拘らず,衆院小選挙区におけるそれが2倍以上の選挙区が少なからずあり,しかも増え続けている。参院の場合,格差が3倍を超えるものも少なくない。そこで本論文では,関係昌法規,主要6カ国の法制及び最高裁の判例,ロックやJ. S.ミルという近代の政治思想家の理論を踏まえ,1票の格差の許容範囲とその対象を恐らく日本では初めて理論的に明らかにする。結論として,格差は,各選挙区の有権者数を対象とし,できるだけ1対1に近づけるべき事,少なくとも全選挙区の平均値の上下20%未満であるべき事を示す。
著者
日隈 正守
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.23-38, 2003-03-18

本稿では,大隅・薩摩両国に存在する万得(徳)領について再検討を加えた。その結果万得価は,11世紀末から12世紀初期の間に大隅・薩摩両国の国管に拠り設定されたと考えられる。万得領の設定目的は,大隅・薩摩国内の主要な神社の神事用途を弁済するためであると考えられる。大隅国内においては,大隅国正八幡宮が国内最有力の神社であるので,大隅国内の万得価の年貢は,主に大隅国正八幡宮の神事用途に使用された。この事実が前提となり,大隅国内では,荘園公価制の大枠が形成された12世紀前期に,大隅国内の万得領は大隅国正八幡宮の半不輸価化した。薩摩国内の万得領は,当初新田八幡宮等国内の有力神社の神事用途を負担していた。しかし平安後期薩摩国管と新田八幡宮とが浮免田設定や修造に関して対立する様になると,薩摩国管の在庁官人達は自分達が領有している万得領を大隅国正八幡宮に半不輸領として寄進した。その結果,薩摩国内の万得領も大隅国正八幡宮領化した。
著者
関山 徹
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.139-147, 2014

広汎性発達障害者の人間表象の特徴を分析するために、TAT反応に現れた登場人物の描写を検討した。調査協力者は、広汎性発達障害者の群19名(P群)および同人数の対照群(NP群)であった。その結果、P群はNP群と比較して、(1)物語内に登場させる人数が少ないこと、(2)登場人物同士の関係が確定的でないこと、(3)登場人物同士の関与の程度が弱いこと、(4)登場人物の内面についての言及が少ないこと、(5)登場人物に愛着対象を見ることが少ないことが明らかになった。また、P群は人間関係への関心が低いと考えられるものの、基本的な対人知覚能力が劣るわけではなく視覚的な手掛かりの有無によって関心の程度が影響を受けやすいと推察された。
著者
下原 美保 長友 希巳 シモハラ ミホ ナガトモ キミ SHIMOHARA Miho NAGATOMO Kimi
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.65-76, 2014

科学的手法を用いた絵巻における画像のパターン分析は、一部の研究を除き、従来ほとんど着手されてこなかった。本研究は、ハフ変換を用いることで、絵巻に描かれた建築物の斜角を検出し、その傾向をパターン分析したものである。対象とした作品は、制作年代が巻によって異なる「石山寺縁起絵巻」、鎌倉時代に同一工房で制作された「春日権現験記絵巻」、江戸時代初期に制作された「元三大師縁起絵巻」等である。「石山寺縁起絵巻」では、時代の違いと建築物における斜角の傾向がほぼ一致していること、「春日権現験記絵巻」では、前半の斜角はほぼ同じであるが、後半は差異が見られること、「元三大師縁起絵巻」では全巻を通して斜角にばらつきが見られることを指摘した。これらは時代や工房の違い、分業の在り方、絵巻における古典編集を反映していると推測される。今後は、従来の文献や様式研究等と照合することで、その有用性を検証していきたい。
著者
梅林 郁子 ウメバヤシ イクコ UMEBAYASHI Ikuko
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.55-68, 2012

19世紀の作曲者フーゴー・ヴォルフ Hugo Wolf(1860–1903)は、歌手のフリーダ・ツェルニー Frieda Zerny(1864–1917)と、一時期恋人として親しい関係にあり、ヴォルフからツェルニーに宛てた書簡は、全51通が残されている。本研究は、この書簡のうち前半31通について考察した梅林2012に引き続き、二人の恋愛関係が終わった1894年7月から1895年8月にかけての、後半20通の簡内容を対象として、二人の音楽的な相互関係を中心に、ヴォルフを取り巻く音楽的環境を考察するものである。ツェルニーとの恋愛が順調だったときには、その関係が互いの演奏活動に影響することはあっても、直接にヴォルフの創作活動に結びつくことはなかった。むしろヴォルフは、恋愛の後、再び創作に気持ちが向くなかで、ツェルニーが歌手として成功していく過程を見、自分も創作の場で成功を収めたいという強い気持ちを抱き、それがオペラ《お代官様 Der Corregidor》(1896)や、そのすぐ後に続く、晩年のリート作曲期へ繋がったと考えるべきである。こうしてツェルニーは、ヴォルフの1895年以降の創作活動において、創作意欲を喚起するという意味で、非常に強い影響を及ぼした人物と捉えられるのである。