- 著者
-
村田 康常
- 出版者
- 名古屋柳城短期大学幼児教育・保育研究会
- 雑誌
- 柳城こども学研究 = Ryujo Child Studies
- 巻号頁・発行日
- no.1, pp.109-120, 2018-07-20
本研究では、絵本、特に(英米の絵本の影響下で生まれた)日本の物語絵本に描かれた「おおかみ」の姿に注目して、物語の中で「悪役」として描かれてきた「おおかみ」が、「悪役」というステレオタイプを脱していく変化を考察する。この変化の要因として、ここでは、「子ども期の発見」をベースにした、文明化・近代化にともなう社会心理学的な変化を取り上げる。絵本は、近代における「子ども期の発見」を通して、昔話をベースにして、昔話の中の性的・暴力的な描写や殺人や死への直接的な言及を抑制することによって、商業出版される児童書として成立し、その後も軍国主義や大衆文化、ポストモダンの流行などの社会的文化的な変化とともにさまざまな表現が試みられてきた、ということを具体的な事例によって示すのが、本研究の目的である。本研究では、その典型例として、イギリスの昔話「三びきの子ぶた」をもとにした日本の絵本を取り上げる。オリジナルの昔話では「脅威」や「悪」として描かれてきた「おおかみ」が、絵本においては、次第に、クールで愛嬌のあるベビーフェースとして肯定的に描かれていくようになる。その背景には、近代における「子ども期の発見」をベースにした、社会の文明化・近代化にともなう諸変化がある。これらの変化によって影響を受けた多くの絵本が登場しているということは、子どもたちの生活世界が、多様な価値観や世界観をもった人びとが共存する多元論的な世界へと変化しているということを示している。