著者
湯浅 成大
出版者
東京女子大学論集編集委員会
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.195-218, 2014-03

本論文では、2001年9月11日(9.11)のアメリカに対するテロ攻撃以後の10年間で、アメリカは変わってしまったのかを検証することを目的とする。そのために、まず2011年9月の代表的なオピニオン誌に掲載された9.11関連の諸論考を考察することで、リベラル、保守、国際政治学のリアリストの9.11に対する見解を比較する。リベラルは、9.11以後の10年間を「失われた10年」と考えている。それはブッシュ大統領による対テロ戦争は、アメリカの大義から外れ、国民の安全も保障せず、市民的自由や権利の侵害を進行させただけだったからである。逆に保守は、ブッシュ大統領の対テロ戦争を無条件で称賛する。テロリストによる大量殺戮というこれまでとは全く異なる脅威に対して、ブッシュ大統領は新しい戦略ドクトリンを生み出し、「アラブの春」へと道を開いたというのである。一方国際政治学のリアリストは、ブッシュ大統領の対テロ戦争における「単独主義」や「先制攻撃」もアメリカ外交の伝統の延長線上に位置づけることは可能だと主張し、9.11以後の変化を強調しすぎることに反対する。これらの一見全く違うように見える主張には実は共通する特徴がある。それは「内向き志向」ということである。このような状況下で、大統領に就任したオバマだが、彼にとっても9.11以後アメリカを覆った自国の安全第一という雰囲気を打破するのは難しかった。彼は、キューバのグアンタナモ海軍基地内にあるテロ容疑者収容所の閉鎖と、そこにおけるテロ容疑者の無期限拘留の停止を決断した。それらの問題はアメリカの道徳的優位性を損なうと彼は考えたからである。しかし連邦議会での議論においては、オバマ大統領が掲げた道徳性の問題はほとんど顧みられなかった。その結果、彼はこの問題について立往生してしまったのだ。オバマ大統領を失敗させたもの。それは、理性に訴えかけて「話せばわかる」というリベラル的信念の後退と、自分の身の安全と生活防衛をすべてに優先させる内向き志向の日常生活リアリズムの台頭に支えられた「過防備国家」の誕生である。これこそが、アメリカが9.11以後の10年で変わってしまった姿なのである。

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CiNii 論文 -  10年後の9.11 : 「過防備国家」の誕生と「日常生活リアリズム」の支配 https://t.co/9LULCdb5X0 #CiNii

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