著者
湯浅 成大
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.207-233, 0000

Barak Obama was elected U.S. President proclaiming that he bring change to America. I discuss whether Obama's victory will really makes America change and, if so, in what sense.First, I analyze whether Obama's victory means a realignment of the American political structure, in other words, a party realignment. My hypothesis is that it is true. The political analyst John B. Judis claims that a new liberal majority is being formed. Composed of professionals, women, and ethnic minorities, the new liberal majority is a driving force of the realignment of the American political structure. Some data support this: the changing voting pattern of wealthier people and younger white generation.Second, I examine how Obama has changed American foreign policy and its implications. Obama's diplomatic style is called "idealistic pragmatism",and was demonstrated in his "Nuclear Free" speech at Prague, his stress on international cooperation, and his commitment to global agendas. It is proof of a departure from former President George W. Bush's unilateral U.S. foreign policy. This is the biggest "change" in Obama's foreign policy. I also argue that President Obama's change in U.S. foreign policy is a kind of strategy for adapting to the "changing world environment",that is, the relative decline of American power, the emergence of BRICs, and, a more unfavorable scenario for America, "a world without the West".Although conservatives in the U.S. are tenacious opponents of Obama's domestic and foreign policy, yet I conclude that President Obama has started making America change in two arenas: realignment of the American political structure and promotion of his "idealistic pragmatism" in foreign policy.オバマ大統領は「チェンジ」をスローガンに掲げてアメリカ大統領に当選した。本論文ではオバマの勝利が本当にアメリカに「チェンジ」をもたらすのか,またもしそうであるならそれはどういう変化をもたらすのかについて論じる。第一に,オバマの勝利はアメリカの政治構造に変動をもたらすのかについて検討する。政治評論家のジョン・B・ジュディスは,オバマの勝利は専門職・女性・マイノリティを核とする新しいリベラル多数派の勝利とみる。それが事実ならば政治構造の再編が起こったということができる。この見方を裏付けるデータとしては,2004年選挙の場合は,年収5万ドルを境に低所得者層の民主党ケリー支持と富裕者層の共和党ブッシュ支持が鮮明に分かれていたが,今回は年収5万ドル以下の層の民主党オバマ支持は堅固である一方,5万ドル以上の層でもオバマと共和党のマケイン支持が拮抗している。つまり所得の多寡と候補者支持のパターンが2004年と2008年では変化しているのである。また,前回選挙ではブッシュが選挙人を獲得したが,今回はオバマが勝利した接戦州のうち,コロラドとヴァージニアでは,大卒大学院卒のオバマ支持が目立っている。このことは,専門職層の民主党支持への変化を示唆するデータといえる。これらのデータから本論文では,オバマの勝利は個人的なものではなく政治構造の変動の始まりであるという仮説を支持する。第二に,オバマ政権の外交政策における変化である。オバマ政権の外交は,国際協調重視や環境問題などのグローバルイッシュー重視からわかるように,ブッシュ政権の外交とは全く異なるものである。彼の外交スタイルは「理想主義的プラグマティズム」と名づけることができる。プラハでの「核のない世界」演説にみられるように,現実的な目標を実現させる過程において,理念や理想に訴えてまわりを説得するアプローチである。もちろんこれらの姿勢はブッシュ政権からの決別を示すためのものであるが,同時にアメリカのパワーの相対的衰退,BRICsといわれる新興諸国の台頭に加え,「欧米抜きの世界」が登場する可能性も見据えた,新しい国際環境への適応戦略とも考えられる。オバマの「チェンジ」は,アメリカ国内の保守派の抵抗もあって,簡単には実現しないかもしれないが,政治構造の変動と新しい外交スタイルの確立という点で端緒を開いたと本論文では結論づける。
著者
湯浅 成大
出版者
東京女子大学論集編集委員会
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.195-218, 2014-03

本論文では、2001年9月11日(9.11)のアメリカに対するテロ攻撃以後の10年間で、アメリカは変わってしまったのかを検証することを目的とする。そのために、まず2011年9月の代表的なオピニオン誌に掲載された9.11関連の諸論考を考察することで、リベラル、保守、国際政治学のリアリストの9.11に対する見解を比較する。リベラルは、9.11以後の10年間を「失われた10年」と考えている。それはブッシュ大統領による対テロ戦争は、アメリカの大義から外れ、国民の安全も保障せず、市民的自由や権利の侵害を進行させただけだったからである。逆に保守は、ブッシュ大統領の対テロ戦争を無条件で称賛する。テロリストによる大量殺戮というこれまでとは全く異なる脅威に対して、ブッシュ大統領は新しい戦略ドクトリンを生み出し、「アラブの春」へと道を開いたというのである。一方国際政治学のリアリストは、ブッシュ大統領の対テロ戦争における「単独主義」や「先制攻撃」もアメリカ外交の伝統の延長線上に位置づけることは可能だと主張し、9.11以後の変化を強調しすぎることに反対する。これらの一見全く違うように見える主張には実は共通する特徴がある。それは「内向き志向」ということである。このような状況下で、大統領に就任したオバマだが、彼にとっても9.11以後アメリカを覆った自国の安全第一という雰囲気を打破するのは難しかった。彼は、キューバのグアンタナモ海軍基地内にあるテロ容疑者収容所の閉鎖と、そこにおけるテロ容疑者の無期限拘留の停止を決断した。それらの問題はアメリカの道徳的優位性を損なうと彼は考えたからである。しかし連邦議会での議論においては、オバマ大統領が掲げた道徳性の問題はほとんど顧みられなかった。その結果、彼はこの問題について立往生してしまったのだ。オバマ大統領を失敗させたもの。それは、理性に訴えかけて「話せばわかる」というリベラル的信念の後退と、自分の身の安全と生活防衛をすべてに優先させる内向き志向の日常生活リアリズムの台頭に支えられた「過防備国家」の誕生である。これこそが、アメリカが9.11以後の10年で変わってしまった姿なのである。
著者
湯浅 成大
出版者
東京女子大学論集編集委員会
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.195-218, 2014-03

On September 11, 2011 was the tenth anniversary of the 9.11 terrorist attacks on the U.S. The main purpose of this article is to investigate whether America changed after the terrorist attacks. For that purpose, firstly, I examine how liberals, conservatives, and realist theorists think about the significance of the 9.11 terrorist attacks.Liberals consider the 10 year period since the 9.11 terrorist attacks a lost decade because President Bush's "war on terror" was irrelevant to the U.S. goals of achieving justice and keeping America safe. Conservatives, in turn, praise President Bush's "war on terror" without reservation. Realist theorists in International Relations argue that the 9.11 attacks did not change the nature of American diplomacy so much. They maintain that even President Bush's unilateral stance on the war against Iraq can be placed in the tradition of the U.S. foreign policy. Although these views look completely different, they have a common feature, which is their "inward-looking" or "America first" orientation.In this situation, President Obama issued a Presidential Executive Order to close the detention facility at Guantanamo in Cuba and stop indefinite detention of suspected terrorists in order to revive America's moral authority. However, most Americans did not support the President's plan because it was too idealistic, and they thought their own security more important than moral imperatives. This is a typical cases in which President Obama found it difficult to go against the dominant tide after 9.11.Inward-looking moments in American society and government are consonant with liberal's loss of confidence and the development of "everyday" realism. As a result, a "hyper security conscious state" has emerged in America. A "hyper security conscious state" is the kind of state that takes steps at home and abroad even when they violate civil liberties or they undermine the U.S.-allies relationship. Most ordinary people in America seem to reluctantly or sometimes willingly accept this "hyper security conscious state" because of their fear of terrorist threats. In this sense, I conclude that America has changed to the great extent after 9.11 terrorist attacks.本論文では、2001年9月11日(9.11)のアメリカに対するテロ攻撃以後の10年間で、アメリカは変わってしまったのかを検証することを目的とする。そのために、まず2011年9月の代表的なオピニオン誌に掲載された9.11関連の諸論考を考察することで、リベラル、保守、国際政治学のリアリストの9.11に対する見解を比較する。リベラルは、9.11以後の10年間を「失われた10年」と考えている。それはブッシュ大統領による対テロ戦争は、アメリカの大義から外れ、国民の安全も保障せず、市民的自由や権利の侵害を進行させただけだったからである。逆に保守は、ブッシュ大統領の対テロ戦争を無条件で称賛する。テロリストによる大量殺戮というこれまでとは全く異なる脅威に対して、ブッシュ大統領は新しい戦略ドクトリンを生み出し、「アラブの春」へと道を開いたというのである。一方国際政治学のリアリストは、ブッシュ大統領の対テロ戦争における「単独主義」や「先制攻撃」もアメリカ外交の伝統の延長線上に位置づけることは可能だと主張し、9.11以後の変化を強調しすぎることに反対する。これらの一見全く違うように見える主張には実は共通する特徴がある。それは「内向き志向」ということである。このような状況下で、大統領に就任したオバマだが、彼にとっても9.11以後アメリカを覆った自国の安全第一という雰囲気を打破するのは難しかった。彼は、キューバのグアンタナモ海軍基地内にあるテロ容疑者収容所の閉鎖と、そこにおけるテロ容疑者の無期限拘留の停止を決断した。それらの問題はアメリカの道徳的優位性を損なうと彼は考えたからである。しかし連邦議会での議論においては、オバマ大統領が掲げた道徳性の問題はほとんど顧みられなかった。その結果、彼はこの問題について立往生してしまったのだ。オバマ大統領を失敗させたもの。それは、理性に訴えかけて「話せばわかる」というリベラル的信念の後退と、自分の身の安全と生活防衛をすべてに優先させる内向き志向の日常生活リアリズムの台頭に支えられた「過防備国家」の誕生である。これこそが、アメリカが9.11以後の10年で変わってしまった姿なのである。
著者
湯浅 成大 湯浅 成大 ユアサ シゲヒロ
出版者
東京女子大学
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.207-234, 2010-03

Barak Obama was elected U.S. President proclaiming that he bring change to America. I discuss whether Obama's victory will really makes America change and, if so, in what sense.First, I analyze whether Obama's victory means a realignment of the American political structure, in other words, a party realignment. My hypothesis is that it is true. The political analyst John B. Judis claims that a new liberal majority is being formed. Composed of professionals, women, and ethnic minorities, the new liberal majority is a driving force of the realignment of the American political structure. Some data support this: the changing voting pattern of wealthier people and younger white generation.Second, I examine how Obama has changed American foreign policy and its implications. Obama's diplomatic style is called "idealistic pragmatism",and was demonstrated in his "Nuclear Free" speech at Prague, his stress on international cooperation, and his commitment to global agendas. It is proof of a departure from former President George W. Bush's unilateral U.S. foreign policy. This is the biggest "change" in Obama's foreign policy. I also argue that President Obama's change in U.S. foreign policy is a kind of strategy for adapting to the "changing world environment",that is, the relative decline of American power, the emergence of BRICs, and, a more unfavorable scenario for America, "a world without the West".Although conservatives in the U.S. are tenacious opponents of Obama's domestic and foreign policy, yet I conclude that President Obama has started making America change in two arenas: realignment of the American political structure and promotion of his "idealistic pragmatism" in foreign policy.オバマ大統領は「チェンジ」をスローガンに掲げてアメリカ大統領に当選した。本論文ではオバマの勝利が本当にアメリカに「チェンジ」をもたらすのか,またもしそうであるならそれはどういう変化をもたらすのかについて論じる。第一に,オバマの勝利はアメリカの政治構造に変動をもたらすのかについて検討する。政治評論家のジョン・B・ジュディスは,オバマの勝利は専門職・女性・マイノリティを核とする新しいリベラル多数派の勝利とみる。それが事実ならば政治構造の再編が起こったということができる。この見方を裏付けるデータとしては,2004年選挙の場合は,年収5万ドルを境に低所得者層の民主党ケリー支持と富裕者層の共和党ブッシュ支持が鮮明に分かれていたが,今回は年収5万ドル以下の層の民主党オバマ支持は堅固である一方,5万ドル以上の層でもオバマと共和党のマケイン支持が拮抗している。つまり所得の多寡と候補者支持のパターンが2004年と2008年では変化しているのである。また,前回選挙ではブッシュが選挙人を獲得したが,今回はオバマが勝利した接戦州のうち,コロラドとヴァージニアでは,大卒大学院卒のオバマ支持が目立っている。このことは,専門職層の民主党支持への変化を示唆するデータといえる。これらのデータから本論文では,オバマの勝利は個人的なものではなく政治構造の変動の始まりであるという仮説を支持する。第二に,オバマ政権の外交政策における変化である。オバマ政権の外交は,国際協調重視や環境問題などのグローバルイッシュー重視からわかるように,ブッシュ政権の外交とは全く異なるものである。彼の外交スタイルは「理想主義的プラグマティズム」と名づけることができる。プラハでの「核のない世界」演説にみられるように,現実的な目標を実現させる過程において,理念や理想に訴えてまわりを説得するアプローチである。もちろんこれらの姿勢はブッシュ政権からの決別を示すためのものであるが,同時にアメリカのパワーの相対的衰退,BRICsといわれる新興諸国の台頭に加え,「欧米抜きの世界」が登場する可能性も見据えた,新しい国際環境への適応戦略とも考えられる。オバマの「チェンジ」は,アメリカ国内の保守派の抵抗もあって,簡単には実現しないかもしれないが,政治構造の変動と新しい外交スタイルの確立という点で端緒を開いたと本論文では結論づける。