著者
渡辺 優
出版者
天理大学
雑誌
天理大学学報 = Tenri University journal (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-28, 2018-10

今日の人文社会科学全般に巨大な足跡をのこしたミシェル・ド・セルトーであるが,領域横断的なその業績を包括的に理解しようとする試みはいまだ少ない。本稿は,彼の言語論を軸に「ひとつのセルトー」像の提示を試みる。神秘主義の言語論からはじめて,彼のキリスト教論の重要性を強調し,「パロール」をめぐる思考を追跡する。それは,経験と言語活動の乖離という,キリスト教および文化の危機をめぐる先鋭な問題意識に裏打ちされていた。パロールをめぐる彼の「神学的」思考は,1970年代以降,歴史記述論や日常的実践論を通じて西欧近代の学知の根本的な問いなおしへと展開してゆく。「他者のパロール」を求め続けた彼の思考は,それ自体,「宗教」が学知のうちで「思考不可能なもの」となった時代の宗教言語論である。

言及状況

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

収集済み URL リスト