- 著者
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楠 義彦
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.96, no.1, pp.71-99, 2013-01
一五八○年に発生したドーバー海峡を震源とするロンドン地震はイギリスで最も有名な地震である。当時地震は物理現象ではなく、精神的・宗教的現象であると考えられていた。この地震後に登場する多くの地震関連の著作では地震理論の体系化がはかられるなかで、邪悪な信仰生活に対する神の警告としてこの地震を位置づけていく。キリスト教世界では自然災害を神罰として解釈することが一般的であるが、それは体験に基づく地震理論との調和の上でなされなければならなかった。そのため被害の少ないこの地震の場合、警告ではあっても神罰の実例としては説得力がなかったと思われる。一六世紀後半のイングランドでは、カンタベリ大主教エドマンド・グリンダルを中心として神罰への意識が喚起されていくが、ロンドン地震はまさにその王業の機会であった。