- 著者
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藤井 翔太
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.96, no.6, pp.743-779, 2013-11
第二次世界大戦後のイングランドのプロ・フットボールにおいて、選手の契約・給与問題を巡ってフットボール・リーグと選手組合は労働省を巻き込む形で争議に突入した。二〇年近く断続的に続いた争議を通じて財政規則が改定され、選手の待遇や社会的イメージの向上が図られたが、リーグの閉鎖的なガバナンスのあり方の根幹は保たれた。その一方で、争議を通じてメディアの報道や政府のスポーツ推進政策が加熱し、国際的競争が激化したこともあり、フットボールへの国民の注目度が高まった。メディアや政府などの多様な回路と結びつくことで、プロ・フットボールは単なる娯楽産業の枠を超えた存在になっていった。つまり、争議を通じてプロ・フットボールは、国家の福祉政策を充実させるための財源として、国際競争における国の誇りを体現する国民的行事として、イングランド社会におよぼす影響をましていったのである。