- 著者
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津城 寛文
Hirofumi TSUSHIRO
- 出版者
- 宗教倫理学会
- 雑誌
- 宗教と倫理 (ISSN:13468219)
- 巻号頁・発行日
- no.14, pp.21-33, 2014-11
死者(あるいはここにいないはずの生者)が、姿を見せたり言葉を語ったり、その気配がしたり、匂いや音がしたりという話題は、19 世紀末英国の心霊研究で「死者(生者)の幻影」という術語を与えられ、膨大な調査報告が出された。こうした話題は、ちょうど日常と非日常の接する領域に、分布している。そしてそのリアリティは、日常的な状況では拡散し周辺化されるが、非常事においては増幅し、社会に表面化してくる。\非常事の典型は大規模な天変地異である。2011 年の東日本大震災と大津波では、ほぼ一瞬のうちに数万人の死者・行方不明者が出て、死者の幻影の目撃譚の噂が広がっている。3・11 以降、死因を共有する大量の死者のそのような大きな圧力が、日常と非日常のリアリティ比率を変えたようである。また「死者の幻影」譚を悪用した「霊感商法」や、霊感商法まがいの伝道の報告、その噂が、あちこちで語られている。死者のリアリティを扱う宗教学は、このような死者との交流に絡んでくる諸問題に対して、私的なスピリチュアリティ領域でのハラスメントやアビューズから、社会事件ともなる詐欺や脅迫まで、有形無形の非合法を仕分ける役割が期待される。