著者
北山 祥子
出版者
北海道大学大学院文学研究科北方研究教育センター
雑誌
北方人文研究 (ISSN:1882773X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.69-87, 2019

本稿は、建国神話が国民形成と国家推進にもたらす影響力に注目し、朝鮮総督府統治下における朝鮮と日本の建国神話の位相について考察する。植民地朝鮮で起きた「檀君論争」では、日本人研究者による圧倒的な檀君否定が支配的であり、その根底には、多様な神話群を認めない記紀の排他的な「一国一神話化」の論理があった。明治政府が天皇制の精神的支柱とした記紀は、その成立過程において、「一国一神話化」の淵源ともいえる「神話の淪滅」を行う。具体的には、記紀以外の神話が、天皇家の都合に合わせて取り込まれ、改変吸収され、抹殺されて記紀神話が成立した。長く続いた武家社会において、記紀の大衆的な認知度は低かったが、明治時代になると、天皇制とともに日本神話=記紀という「一国一神話化」が徹底される。その影響は当然のことながら植民地朝鮮にもおよび、歴史を四千年以上も遡る檀君神話は、朝鮮史編修会の御用学者らによって徹底的に批判された。朝鮮史編修会が編纂した『朝鮮史』に、檀君朝鮮の条はない。日本人研究者らの強引な「一国一神話化」の背景には、記紀しか認めない絶対的な排他性はもちろん、朴殷植や申采浩らが民族主義運動の精神的支柱に檀君を据えたことも要因となっている。彼らや、『三国遺事』の再発見により檀君復権をめざした崔南善、檀君神話の重用に懐疑的だった白南雲や金台俊らの檀君言説からは、立場の違いはあっても、朝鮮民族としての自負心や長い歴史への誇りがにじむ。日本人研究者と朝鮮人研究者の議論は、国民国家と建国神話の不可分性という点において、実は同質的であり、日本がもたらした「一国一神話化」の衝撃は、そのまま朝鮮民族が主体となる「一国一神話化」の希求へとつながった。

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