- 著者
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小林 功
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
- 雑誌
- 史林 = The Journal of history (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.102, no.1, pp.40-74, 2019-01
六三〇年代以降、アラブがビザンツ帝国の領域への侵攻を開始し、シリア・パレスティナ地域やエジプトなどが短期間にビザンツ帝国の手から奪われた。当初ビザンツ帝国の人びとは、アラビア半島からの侵攻者がどのような人びとであるのか、十分に理解できていなかった。だがアラブ国家が安定し、彼らとのさまざまな形の交渉が進むにつれて、アラブがどのような人びとであるのか、ビザンツ帝国の人びとも徐々に理解していく。そしてアラブとの対峙が続く中で、自らを「神の加護を得ている皇帝が支配するキリスト教徒の共同体・地域=ローマ帝国」とみなすアイデンティティも再確認されていった。一方アラブもビザンツ帝国を滅ぼすことができなかったため、「ローマ帝国の後継者」となることができなかった。そのためビザンツ帝国との併存が確定的となった七世紀末以降、独自のイスラーム文明を形成していく道を選ぶことになる。