- 著者
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松野 哲哉
河本 大地
馬 鵬飛
- 出版者
- 奈良教育大学次世代教員養成センター
- 雑誌
- 次世代教員養成センター研究紀要 = Bulletin of Teacher Education Center for the Future Generation (ISSN:21893039)
- 巻号頁・発行日
- no.5, pp.175-184, 2019-03
本稿は、1960年代の山間地域における「へき地教育」について、奈良県吉野郡十津川村の大字出谷の事例を中心とした調査により、現代的評価をおこなうことを目的とする。玉井(2016)の挙げるへき地小規模校教育の良さを指標とした。本稿で調査した旧十津川村立出谷小学校は、標高約600mの山頂部に位置し、児童は毎日長い時間をかけて山道を上り下りして通学していた。また栄養状態が悪く、学習面のみならず、環境の面でも「遅れた」状態であった。しかし、児童の自然体験は豊かだった。また、授業以外にも教員と子ども、および子ども同士の信頼関係が深いことを示す出来事が多数みられた。例えば、学校で使うための木炭づくりや、水の確保、通学路の整備などである。子どもたちはその生活を通して、リーダーシップや社会性を身につけた。こうした教育を実施するにあたり、保護者のみならず地域社会全体が学校に対し、非常に好意的、協力的であったことがわかる。これにより、教員は一層子どもと向き合う時間を確保でき、深い信頼関係を構築することができたと考えられる。