- 著者
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渡邉 憲正
- 出版者
- 関東学院大学経済経営研究所
- 雑誌
- 関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
- 巻号頁・発行日
- no.41, pp.46-62,
マルクスは『経済学批判要綱』において資本主義的私的所有と無所有をテーマとして考察したとき,必ず歴史的なアプローチをとり,本源的所有(共同所有)の諸形態から資本主義的私的所有がいかに生成したかを貨幣章や資本章の各所で論じたが,それを系統的に論述することはなかった。そのためか,研究史でも本源的所有の解体過程ないし私的所有生成史は考察されることが少なく,マルクスの私的所有形態論は,『要綱』研究の欠落部分をなしている。本稿は,私的所有の生成に,共同体所有と対立した土地の私的所有と交換→商品生産→貨幣関係を媒介とする私的所有との2つの系統を区別し,それが相互作用を通じて貨幣資産を形成し,やがては資本主義的私的所有へと転化する過程に関するマルクスの把握を考察することによって,マルクスの私的所有形態論--私的所有生成史論--の整合的把握を試みた。