- 著者
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渡邉 憲正
- 出版者
- 関東学院大学経済経営研究所
- 雑誌
- 関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
- 巻号頁・発行日
- vol.35, pp.46-70, 2013-03
近代西洋は,各個人の自然権と各国家の主権を原理として定立する一方,他ネイション(民族)の「権利」を侵害する植民地化と侵略戦争を遂行した。このときに,それを正当化する思想/理論が要請されるのは,必然である。では,そのために,いかなる思想/理論が要請されるのか。「文明と野蛮」図式は,この二重の相反した課題を果たすための実践的理論装置である。本稿は,「文明と野蛮」図式の形成を,1)所有権と植民,2)進歩の歴史,3)文明化としての戦争,という脈絡で考察し,近代西洋が野蛮を,1)土地所有権の不在,2)法的統治と富裕の不在,3)権利侵害の脅威を与える存在,として把握することによって,植民と戦争を正当化したことを示した。同時に本稿は,近代日本がこの図式を受容してアジアの植民地化と侵略戦争を遂行したこと,現代もなおそれに囚われていることを指摘して,思想史の了解全体を見直す必要を提起した。