- 著者
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田中 みどり
- 出版者
- 佛教大学文学部
- 雑誌
- 文学部論集 (ISSN:09189416)
- 巻号頁・発行日
- no.104, pp.21-38, 2020-03-01
萬葉集の「つつじ花 にほへる (君)」(つつじの花が周囲の緑からとびだすような鮮烈な色であるように生き生きとした)「紫の にほへる (妹)」(むらさきの花のように鮮やかに目にとびこんでくる)「山吹の にほへる (妹)」(山吹の花のように目にまぶしい)などは、いずれも、「つつじ花」「紫草」「山吹」を「君」や「妹」の比喩に用いている。当時、「黄ナル」色は、生成り色も含んだ茶系統の色であり(当時の分類で言えばアヲ系統)、「現在の黄色」にあてはまる色は「ヤマブキ色」であった。また、「白」は透明感を含んだ色であった。日本の古代色、アカ(明)・クロ(暗)・シロ(顕)・アヲ(漠)は、アカ・クロが明度を、シロ・アヲが彩度をあらわすものに他ならない。「シロ」という色彩語が「顕」の義をもつことが、いまだこの時代には実感として保たれていたのである。萬葉集にほへる君にほへる妹色彩