- 著者
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片山 善博
- 出版者
- 日本福祉大学社会福祉学部
- 雑誌
- 日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
- 巻号頁・発行日
- no.142, pp.31-44, 2020-03-31
本稿は,社会福祉の価値を,人格と承認という観点から考察することで,その基礎づけを試みた.まず,岡村重夫が「人間の尊厳の哲学的基礎」とした「主体的人間性」を取り上げ,その意義と限界について考察した.主体的人間性は,社会福祉の主体的側面(個人)と客観的側面(社会)を結びつけるという積極的意義を持つが,その他者性の側面が十分考慮されてはいないという限界を持っている.そこで,個人と社会を結びつける概念としてドイツ観念論で論じられた「人格」概念を吟味することで,改めて社会福祉の人間理解を問い直す.カントの人格論は,社会福祉の人間理解に(例えば尊厳の根拠をめぐる議論等において)大きな影響を与える一方,人格概念を個人の理性的素質に狭めた点に課題がある.これに対して,ヘーゲルの人格論は,人格概念の二重性(他者に対する側面と自己に対する側面)に着目することで,「承認関係」を前提とした個人と社会の媒介構造を基礎づける人格論の構築を可能とした.これは,社会福祉の人間学を構想する上で重要な意味があると考える.