著者
京樂 真帆子
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文學報 = The Zinbun Gakuhō : Journal of Humanities (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
no.115, pp.157-191, 2020-06-30

1968年公開の映画『祇園祭』は, 室町時代の祇園会再興を素材に, 町衆自治の実像を描く時代劇映画である。幕府の妨害に対抗して, 町衆のための祇園祭を挙行する過程に焦点があてられた。これは, 史料『祇園執行日記』の記録を下敷きとし, 林屋辰三郎の町衆研究を映像化するものであった。この映画は, 中世社会の実像から乖離した歴史像を創り出し, 現在の祇園祭イメージにも影響を残している。本稿は, この新しい歴史像が創られていく過程を明らかにした。本稿では, この映画を企画した伊藤大輔が残した自筆原稿, 台本類を研究史料として活用した。京都文化博物館が保存する膨大な資料群は, 仮整理の状態である。本稿は, 映画『祇園祭』に関わる資料を改めて整理し, 表にまとめた。さらに, それらを活用することによって, 従来の映画研究手法(映像分析)とは別の新たな研究方法を提示した。それは, 脚本類および映像そのものを歴史史料として分析するという方法である。残された伊藤大輔の自筆構想メモ・原稿, 2段階の未定稿, 複数ある脚本の分析によって, 伊藤大輔の当初構想から映画に表現されるまでのストーリーの変遷を確認した。そして, 山内鉄也撮影台本などに残された現場メモと実際の映画との比較検討などで, 映像完成に向けての修正点について考察した。その中で, 山鉾の扱いの変遷や山門の描き方の変化を明らかにした。祇園会は, 都市的祭祀である神輿渡御と山鉾巡行の二つの要素からなる祭である。この山鉾巡行を都市住民による自治の象徴と捉え, 新たに祇園祭という名を与えて祇園会から分離独立させるという歴史像を映画は示した。自筆原稿の分析から, この歴史像を創り出したのは, 伊藤大輔であることを明らかにした。一ヶ月間つづく祇園祭の中で, 観光という視点から山鉾巡行にのみ注目が集まっている要因は, この映画が提示した歴史像の影響にあると考えられる。

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京樂 真帆子 - 映画『祇園祭』と歴史学研究 -「祇園会じゃない祇園祭」の創出-【…林屋辰三郎の町衆研究を映像化するものであった。この映画は, 中世社会の実像から乖離した歴史像を創り出し, 現在の祇園祭イメージにも影響を残している。…】 https://t.co/nM1ZMSGIMY
京樂 真帆子 -  映画『祇園祭』と歴史学研究 -「祇園会じゃない祇園祭」の創出-【…林屋辰三郎の町衆研究を映像化するものであった。この映画は, 中世社会の実像から乖離した歴史像を創り出し, 現在の祇園祭イメージにも影響を残している。…】 https://t.co/cTH4M3ohrO

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