- 著者
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坂井 伸子
深見 聡
- 出版者
- 九州地区国立大学間の連携事業に係る企画委員会リポジトリ部会
- 雑誌
- 九州地区国立大学教育系・文系研究論文集 (ISSN:18828728)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.1, 2020-10-30
本研究の目的は、『十六夜日記』の和歌表現に関して、歌枕を一つの指標として分析し、その特質を明らかにすることである。特に歌枕が頻出している「路次の記」を考察の対象とする。歌論書・同時代の紀行文等12の文献との比較や和歌表現の分析を行うことにより、伝統的な名所歌枕の価値を認め詠歌しつつも、時代の変化に合わせ新奇な地名において、自身の感懐を表現する和歌がみられることがわかった。そこには、伝統的かつ古典主義的な知識を踏まえながらも、新しい視点で東海道の景観や風物を活写し、自身の感懐を読み手に伝えようとする阿仏尼の姿勢が看取される。『十六夜日記』「路次の記」の和歌には、題詠の時代から一歩踏み出し、新しい地名に一つの評価を与える阿仏尼の新見性がみられることが明らかになった。