著者
村瀬 敬子
出版者
佛教大学社会学部
雑誌
社会学部論集 = Journal of the Faculty of Sociology (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
no.71, pp.47-66, 2020-09

本稿の目的は1950年代後半から60年代前半を代表する料理研究家であった江上トミを文化仲介者と位置づけ,家庭料理とジェンダーの結びつきという観点からその表象を分析した。特に階層文化のあり方に注目し,主婦自らが料理を作るべきだとする規範(「手づくり規範」と呼ぶ)の強さの背景にどのような理由があるのかを考察した。江上トミ(1899-1980)は初期のテレビの料理番組に出演し,多くの料理にかかわる本にかかわり,料理学校の経営も行っていた料理研究家である。その特徴あるアピアランス(外見やキャラクター)や良妻賢母と料理を結びつけた言説によって,「理想の母」というイメージを持ちながら,幅広い活動によって有名性を獲得していた。「理想の母」としての江上トミのイメージは二つの「知」によって支えられている。ひとつは料理研究家としての正統性を象徴する〈高級文化〉としての「世界の料理」であり,もうひとつは地方名家の母から娘への「伝承」である。江上トミにおける両者の結合は,「世界の料理」を女性が「手づくり」することが「階層の表現」ともなる文化を生み出した。こうしたことから,本稿では,家庭料理の「手づくり規範」の背後には「手づくり」を「愛情の表現」とするだけでなく,「階層の表現」ともする二重の意味づけがあることを指摘し,この二重性によって,主婦自らが料理を作ることに強い規範性があるのではないかと考察した。料理研究家江上トミ文化仲介者手づくり規範階層

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