- 著者
-
安部 清哉
- 雑誌
- 人文 (ISSN:18817920)
- 巻号頁・発行日
- no.19, pp.43-83, 2021-03
本稿では、中古の和文資料である『篁物語』の写本のうち、より古態をとどめていて、14世紀半ば以前の形態を保持する可能性がある「末尾有空白系統本」(安部(2020))の一写本である彰考館本の甲本を取り上げ、その最末尾1文の特徴、および、使用仮名字母の使用開始時期について検討する。 結論としては、"末尾有空白系統本"では最末尾1文は、本文部分が成立した後の別段階(*後日、後人、後代、また、同一人物か別人かも含む)に追記されたこと、甲本ないしその遡及する系統の写本は、字母「新(し)」「遅(ち)」「半(は)」「累(る)」が使用可能になった、およそ1000年前後頃以降のものであり。甲本の上限は10世紀以前には溯らないこと、を述べた。具体的に検討した問題点は以下の通りである。 (1)本文部分とは異なる特徴を持ち、本文部分成立ののちの後補部分と安部(2020)にて推定した最末尾の1文(「又あらじかし【新】/かやうにおもひて文つくるひとは」)を取り上げ、ア、字母「新」の使用、イ、1文内での改行個所での1文字分の余白の問題 (2)写本中の字母「遅」「半」「累」などの使用頻度の少ない変体仮名字母について、仮名史上における使用時期の問題 併せて前稿・安部(2020)にて、それまで未公開であった京都大学人文研究科図書館所蔵本「篁物語」を影印で発表したのに引き続き、京都大学人文研究科の許可のもと、「小野篁集」の影印(複写)を資料として提示する。当該写本自体は、書陵部本の写本(孫本)の位置にあるものでしかないが、『篁物語』の諸写本研究が、甲本の仮名字母レベルやその空白・改行箇所の余白に至るレベルまで重要な意味を持つ段階になったことに鑑み、また、宮内庁書陵部本に忠実な写本と推定される京都大学本「小野篁集」全文をここに掲載する。