著者
平出 昌嗣
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.243-251, 2008-03

この小説のテーマは,主人公の心における愛の誕生である。物語の根本にあるものは時間と愛の対立であり,時間とは,ロンドンに響き渡るビッグ・ベンに象徴されるように,人と社会を支配する現実の絶対的な力になる。クラリッサはその時間の世界で,国会議員の妻として華やかに生きてきたが,老いと死の不安に脅かされたとき,深い孤独と虚無に直面する。それは時間の世界に生きる者の宿命である。しかし三十年ぶりにピーターと再会したとき,心の底から蘇ってきた愛の喜びを知る。物語のプロットとは,時間の世界を抜け出て愛に目覚めるその心の動きになる。それは,心の自由を得るため,窓を開けて投身自殺をするセプティマスの異常な行為と重なる。時間の窓を開けて永遠の愛の世界に飛び込むクラリッサの心も一種の狂気になるが,それによって彼女は時間と死の力に打ち勝ち,魂の再生と歓喜を得ることができる。

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こんな論文どうですか? Mrs. Dallowayにおける時間と愛(平出 昌嗣),2008 https://t.co/oaLg2TiK7G この小説のテーマは,主人公の心における愛の誕生である。物語の根本にあるものは時間と愛の対立であり,時間とは,…

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