- 著者
-
藤井 博之
- 出版者
- 日本福祉大学福祉社会開発研究所
- 雑誌
- 現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
- 巻号頁・発行日
- no.143, pp.1-27, 2021-09-30
私は臨床医として診療と教育・研究の二足のわらじを履き,地域医療,農村と都市はどう連帯するかを考えてきた.新型コロナ禍の中で「命か経済か」のどちらを優先するかという議論がある.これは社会福祉と保健・医療が地続きの分野であることに関わる問いを改めて突き付けている. いくつかの教育実践を取り上げて振り返ることで,この問いについて考えたい.①社会福祉学部や経済学部で「医学概論」を担当してきたが,この科目で医学について何を学ぶよう学生に求めるかを問い直す必要がある.②コロナ禍の下で 2020 年度は編成を変更し,ふくしの論理に医療の論理をつなぎ病気の社会的側面について考えるなどの試みを行う機会になった.③医師である教員として学生が医療の現場を訪ねる機会を作ることも,大事な役目である.在任中は,専門演習 5 クラス,地域研究プロジェクト 3 クラスを担当し,9 回の合宿と 14 回のフィールドワークで,フィールド 24 箇所を訪ねた.④卒業論文では 6 年間に 5 つの専門演習クラスを担当し,52 人全員が論文を提出して卒業した.インタビュー調査 25,事例検討 11,量的調査 6,統計研究 6,参与観察 2,インタビュー調査と事例検討の混合研究 2,テーマは多彩で,保健・医療や病いは 10 数本に過ぎなかった.卒業後社会人 2 年目に自ら生命を絶った者があった.大学教員は学生が就職・進学しただけで役割を果たしたとは言えず,生きぬく力を伝える責任がある.⑤講義科目リハビリテーション医学(2015 ~ 2020 年)では,リハビリテーションという言葉を本来の意味で使うべきだと伝えてきた. 保健医療と社会福祉を含む多職種連携について,本学では教育と研究,地域での実践の機会を豊富に与えられた.在任中に私としては 2 つ目の博士論文(社会福祉学)を提出し,数冊の書籍を出版できた.研究成果には,多職種連携の基盤となる 4 つの共通理解,多職種連携に影響する要因,職場の連携状況評価尺度の開発,response shift の指摘などがある.IPE の学習過程での専門分野間の対立,多職種連携の暗黒面を上手に乗り越えることは教員の援助のポイントである.日本の現状では,医療系と社会福祉学部が参加する IPE は限られている一方で,各職種の国家試験で多職種連携に関する出題が増加しつつあり,中でも社会福祉士では 33.3%(2020 年)と高比率である.日本福祉大学の IPE では,幅広い学部構成という強みを活かすために,教員が履修学生の中で起こる学びや葛藤を学部を超えて共有し,教員同士の多職種連携の経験知を高めるなどの課題に取り組むよう期待する.